[遺言・後見・家族信託]
認知症対策 後見制度と家族信託について
- 投稿:2019年08月07日
- 更新:2024年02月19日
司法書士の佐伯です。
当事務所では、不動産登記、特に売買に関するご相談をよくいただくのですが、売主が認知症もしくはそれに近い状態という場合がもっとも対応に困ることが多いです。
というのも、売主が認知症になってしまっていると売買契約の内容を把握することができず、そもそも契約をきっちりと行うことができなくなってしまいます。
ですので、こういった場合には成年後見制度を使うことになるのですが、現状の成年後見制度は、希望した人を後見人として裁判所に選任してもらえるとは限りません。
つまり、本人が望んでも(望める状態ではないことも多い)の親族が後見人になることができない場合も多いのです。
そういった場合には裁判所が選んだ専門職後見人、具体的には司法書士や弁護士が選任されてプロの後見人として本人の財産管理等を行うことになります。
プロが後見人となるので、もちろん報酬は発生します。
報酬額も財産の額によりますが、少なくとも月3万円程度はかかってきます。
この金額は本人の財産から報酬として支払われることになります。
認知症発症後(判断能力喪失後)は法定後見一択
さて、認知症が完全に発症して、「何もわからない」状況になってしまった場合には、その方は前述のとおり契約行為をすることができません。
その場合は裁判所に申し立てて後見人を選任してもらう「法定後見」しか方法がありません。
本人のための制度ですが、率直に言うとなかなか使い勝手が悪いのが現状です。
後見人の財産管理は裁判所に監督されますので、維持管理する分にはあまり問題はないのですが、不動産売却等の処分を行う場合には裁判所の許可が必要になったりすることもあります。
元気~認知症発症初期段階(判断能力がまだある)では、対策の立てようがある
本人が元気な時はもちろんですが、認知症がたとえ発症していても、まだ何とか判断能力があるような状態であれば、これからの判断能力喪失の備えて何らかの対策を立てることができる場合があります。
ちなみにここでいう「元気」とは、身体のことではなく、頭のことです。
脳梗塞等で身体が不自由であったり、字をうまく書けないような状態でも、頭がしっかりしていれば大丈夫です。
認知症対策の具体的な方法
認知症対策として当事務所でおすすめしているのが家族信託です。
他にも任意後見という方法もあります。
家族信託では、本人の財産を信託契約等によって、自分自身が信頼できる家族に託して管理や処分、運用を任せることができる制度です。
本人が認知症等で判断能力を喪失してしまった場合でも信託した財産には影響はでません。
家族信託は認知症対策に非常に有用です。
任意後見とは、法定後見と違って後見人になってもらう人をあらかじめ契約で決めておくことができる制度です。
家族信託ほど財産を柔軟に運用したりすることはできませんが、信託と違って財産だけの管理にとどまらずに本人の身上監護権(身の回りの世話など)もあります。
ただ、必ず裁判所に後見監督人をつけられますし、最初の任意後見契約は公正証書でしなければならず、さらに本人の判断能力が喪失した時に裁判所への申し立て手続きも必要になったりと手間がかかります。
家族信託も後見制度もそれぞれ一長一短があるのですが、「財産」に着目すると家族信託がおすすめです。
家族信託と任意後見のコスト
家族信託は設定時が複雑なので基本的には司法書士等の専門家を間に入れた方が良いです。当事務所でもご依頼いただいた場合には30万円~の費用がかかります。その他、不動産がある場合は信託登記もする必要があります。
ただし、財産を管理する人(受託者)は家族の方が担いますので、報酬は0円でもかまいませんのでランニングコストはかかりません。
任意後見では、後見契約時には家族信託ほどの費用は掛からないにしても専門家に依頼すればその分の報酬と公正証書にしますので公証役場の手数料がかかります。
本人の判断能力が無くなって、任意後見契約の効力が発動した後の任意後見人の報酬は0円でも最初の契約で設定できますが、後見監督人は必ず選任されますので監督人報酬は発生します。
監督人は任意後見人がついている間はずっと必要ですので、月数万円の監督人報酬というランニングコストが発生します。
まとめ
認知症「対策」としては、家族信託と任意後見という制度があります。
それぞれメリットデメリットはあるのですが、認知症において不動産が売却できないなどご本人の資産が「凍結」されることが一番のデメリットだと思いますので、そこに柔軟に対応できる家族信託制度が私としてはおすすめです。
認知症が発症してしまって判断能力が喪失してしまうと法定後見しか方法は無くなってしまいますので、できれば元気な内に、遅くてもちょっと様子がおかしいと感じたときにご本人やご家族が一度ご相談に来てもらえばと思います。