[不動産(売買以外)]
財産分与の注意点と登記手続き
- 投稿:2017年10月10日
- 更新:2024年02月16日
町田の司法書士佐伯知哉です。
当事務所でもよくご相談いただくのが離婚に伴う財産分与です。
離婚をすると婚姻中に夫婦間で協力して形成・維持してきた財産については、その名義のいかんにかかわらず夫婦の共有財産と考え、離婚の際には、それぞれの貢献度に応じて公平に分配しようという考えの元に財産分与を行います。
また、片方の不貞行為(浮気)などが原因で離婚に至った場合は慰謝料の意味を含めてもう片方が多めに財産分与を請求することが出来ます。
財産分与で司法書士がかかわるのが、不動産についてです。
なぜなら登記手続きが発生するからです。
実際多いケースとしては、自宅不動産が夫または夫婦共有名義になっているのですが、離婚後は妻が住むので不動産の名義を100%妻のものに変えてしまいたいというものです。
このようなケースで注意しなければならない点などを説明します。
贈与税について
不動産などの財産を誰かに譲ると譲り受けた方が贈与税を支払わなければならない場合があります。
贈与税は非常に税率が高いです。
贈与税の税率が低ければ、生前贈与をバンバンして、相続時の財産を減らしてしまうなど、税金逃れが出来てしまうので、それを防ぐためです。
ですので、財産分与の場合も財産を無償で譲り受けた場合には、贈与税が発生するのではと考える方がいます。
結論から言いますと、財産分与では贈与税の課税対象にはなりません。
ちょっとホッとしましたか?
でも、以下のような場合には贈与税が発生します。
1.その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合
婚姻中に形成した財産は夫婦で平等に分け合うのが原則です。
例え妻が専業主婦だとしてもです。
ですので、財産分与時に一方があまりに多く分与を受けるような分け方だと問題が出てくる場合があります。
2.離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合
これは、税金逃れをする為に偽装離婚をして財産分与の名のもとに片側に財産を渡してしまうことです。
普通に考えて問題だと思いますよね。
住宅ローンが残っている場合
財産分与の対象となる不動産に住宅ローンがある場合には注意が必要です。
まず、不動産の名義を変えるにあたって、銀行から何か用意してもらう書類などはありません。
登記手続きは銀行の関与無しに勝手に出来てしまいます。
ですが、住宅ローンを組んだ際の契約書には、通常、所有者(名義)を勝手に変えたらローンの一括返済をしてもらうこともあるよみたいな条項が入っています。
これを無視してやるのは危険です。
ですので、住宅ローンの残っている不動産を財産分与で名義を変える場合は必ず事前に銀行に問い合わせて下さい。
銀行とすれば、名義が誰であれきちんとローンを返済してくれるのであれば不動産の名義変更自体に難癖をつける理由はないので財産分与で名義が変わるということであれば認めてくれるはずです。
問題が出てくるのが、住宅ローンの債務者(お金の借主)が夫単独で、財産分与で不動産の登記名義を妻に変えるようなケースです。
この場合は、妻が住み続けてる不動産に対して、離婚後も夫がずっと返済を続けて行くとことになります。
世の中には色々な人がいますし、色々な事情がありますから、元夫が返済をずっと続けてくれたらいいのですが、その保証はどこにもありません。
元夫の返済が滞った場合には、銀行は不動産を競売に掛けて、その売却代金から住宅ローンの返済を受けます。
つまり、そこに住み続けられなくなってしまうのです。
離婚時に「俺がきちんと返済をする!」と言っても単なる口約束では、反故にされてしまう危険があるので財産分与の協議書はきちんと公正証書で残した方が安心でしょう。
また、場合によっては、妻側で残りのローンを支払っていくということもあるでしょう。
その場合には、住宅ローンの借主を妻に変更する必要があるのですが、妻側に返済能力があると認めてくれれば銀行も借主変更に応じてくれるでしょうが、雇用形態がパートなどでは難しいかもしれません。
このような場合は、銀行との相談を含めて色々なスキーム考えていかなければなりません。
離婚から2年以上が経過している場合
「離婚から2年以上経っていると財産分与は出来なくなりますか?」という質問をよく受けます。
民法第768条
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。
ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
条文には、上記のとおり書いています。
簡単にいうと「離婚をした人は、もう一方の人に対して財産分与の請求が出来る。でも、離婚から2年を経過したときは、裁判所に対してはその請求は出来ないよ」と書いています。
条文だけ読むと、離婚から2年経っていたらもう財産分与は出来ないような気がします。
ですが、当事者(元夫婦)の合意があれば離婚から2年以上経っていても財産分与は出来ます。
あくまで、片一方が拒否した場合には、2年経過後は裁判所に対して請求が出来なくなるだけですので当事者の合意があればOKなのです。
2年という数字だけが先行して、この辺り誤解されている方が多いので、ご注意下さい。
ただ、離婚原因によっては、離婚後に話し合いなど到底出来ないケースもありますし、離婚時の協議書の作成を離婚の条件にするようなケースでは、籍を抜く前にきちんと協議書をまとめておく必要があります。
財産分与の登記手続きについて
財産分与を原因とする不動産の名義変更、正確には所有権移転登記といいますが、この登記は当事者(離婚する夫婦)のみで手続きすることが出来ます。
用意するものとしては、
不動産を貰う側
- 住民票
- 実印
不動産を渡す側
- 権利証
- 印鑑証明書(発行より3ヶ月以内)
- 不動産の評価証明書
- 実印
以上です。
その他、財産分与協議書などの書面は司法書士に依頼した場合は司法書士が全て作成します。
もちろん公正証書にすることも可能です。
まずは財産をどのようにするかを決めて、書面に起こし、内容をまとめます。
財産分与協議書を作成し合意が出来たら、その内容を実行します。
財産分与は離婚に伴うので、通常はあまり話しをしたくないような間柄だと思います。
ですので、中立な立場の専門家を挟んだ方が手続きも安心できると思います。
協議内容がまとまらない場合などは、弁護士や裁判所の介入が必要な場合もありますが、話し合いがまとまっているのであれば、後は法的整理や手続き的な問題になりますので司法書士に依頼してもらえればと思います。
まとめ
- 財産分与の際は贈与税の心配はないが、例外もあるので注意
- 財産分与する不動産に住宅ローンが残っている場合は、勝手に名義を変えてはダメ!
- 離婚から2年以上経過していても、当事者の合意があれば財産分与は出来る
- 財産分与の手続きは協議書の作成も含めて中立の立場である専門家に依頼した方が良い