■事例の背景
O様は40代の会社員で、横浜市内にお住まいです。実家には80代のお母様が一人で暮らしており、ここ数年、少しずつ物忘れが目立つようになっていました。日常生活はまだ問題ないものの、将来的に施設への入居が必要になる可能性を考えると、「実家を売却してその費用に充てる」選択肢も視野に入れる必要がありました。
しかし、O様が調べるうちに気づいたのは、「お母様が認知症と診断されてしまうと、たとえ家族でも実家を勝手に売却できなくなる」という現実でした。成年後見制度を利用すれば売却手続き自体は可能になりますが、家庭裁判所の管理下で自由度が低く、本人の生活費以外に資金を活用しづらい点に強い抵抗を感じたそうです。
「母のために、もっと柔軟に、家族で判断できる方法はないのか」と模索する中で、インターネットで“家族信託”という仕組みを知りました。内容を調べるほどに「これならうちの希望に合っているかもしれない」と感じたものの、制度の仕組みが複雑で、自分たちだけで設計や契約を行うのは不安がありました。
O様は「母にも姉にも納得してもらいながら、きちんとした形で進めたい」と考え、家族信託に詳しい司法書士を探すようになり、当事務所にご相談くださいました。
■当事務所からのご提案
O様からのご相談内容は、「将来的に母が施設に入る場合に実家を売却できるようにしておきたい」というものでした。
お母様はまだ判断能力がしっかりされていましたが、長谷川式スケールで26点と、今後の変化を見据えた早めの対応が望ましい状況でした。そのため、当事務所では「認知症対策」「資産管理の継続性」「家族の合意形成」という3つの観点から、最適な家族信託の設計をご提案しました。
まず初めに行ったのは、家族全員(O様・お母様・お姉様)への説明です。
家族信託は、契約書を作るだけではなく、信託財産をどう管理し、将来どのような判断を家族で行うかを共有しておくことが何より重要です。
当事務所では、成年後見制度との違いや、信託契約により「家族の判断で資産を活用できる」仕組みを、図や具体例を交えて丁寧にご説明しました。結果として、お母様も「これなら自分の意思を反映できる」と安心され、ご家族全員が同じ方向性を確認することができました。
その上で、信託の設計を次のように進めました。
- 委託者(財産の持ち主):お母様
- 受託者(実際に管理を行う人):O様(長男)
- 受益者(利益を受ける人):お母様
この構成により、お母様が安心して生活を続けながら、将来的に判断能力が低下しても、O様が信託契約に基づいて不動産を売却・運用できる仕組みを整えました。
さらに、売却代金の使途や管理口座を明確にするため、信託専用の銀行口座を開設。信託財産と個人財産を明確に分けることで、将来的なトラブル防止にも配慮しました。
契約書は当事務所でドラフトを作成し、内容をO様ご家族と共有。必要に応じて公証役場とも調整を行い、法的に有効で、かつ家族の意向を最大限反映した契約内容に仕上げました。
信託契約締結後は、不動産の信託登記までをワンストップでサポートし、形式・内容ともに万全な状態で完了いたしました。
家族信託は、単に“契約書を作るだけ”の制度ではなく、「これから先の家族の安心をどう設計するか」という、家族全体の意思を形にする仕組みです。
今回のO様のケースでは、母・姉・長男の3人が同じテーブルで話し合い、納得した上で契約を結べたことが、何よりの成果だったと感じています。
今後も当事務所では、信託の定期的な見直しや、運用段階でのフォローも行いながら、ご家族の安心を継続的にサポートしてまいります。
■お客様の声
母の物忘れが増えてきたころから、「もし施設に入ることになったら実家をどうするか」という話題が家族の中で出ていました。
成年後見制度を使えば対応できることはわかっていましたが、家庭裁判所の関与があると柔軟な判断ができなくなると聞き、なるべく利用したくないという気持ちが強くありました。
そんなときに司法書士法人さえき事務所さんの家族信託の説明を受け、私たちの希望にぴったりの方法だと感じました。
専門的な内容をやさしい言葉で丁寧に説明してくださり、母も「これなら理解できる」と安心して話を進めることができました。契約書の内容も一つひとつ確認しながら進めてくださったので、納得感を持って手続きを終えることができました。
もし自分たちだけで制度を調べていたら、ここまで具体的に形にするのは難しかったと思います。
早い段階で専門家に相談して本当によかったです。今は「これで母の将来に備えられた」という安心感があります。