■事例の背景
A様は60代の男性で、大和市にお住まいです。お母様は足が悪くなったことをきっかけに、もともと暮らしていた大阪から大和市内の介護施設に移り住まれました。頭はしっかりされており、ご自身の財産についても強い責任感をお持ちでしたが、施設の費用が長期化することを考えると、「大阪の実家を売却して資金を確保する必要がある」とA様は感じていました。
ところが、実家はお母様と妹様の共有名義になっており、売却の際には双方の合意が必要です。さらに、売却の手続きが進むまでにお母様の判断能力が衰えてしまった場合、たとえ家族でも契約ができなくなるリスクがありました。成年後見制度を利用すれば売却は可能になりますが、家庭裁判所の許可が必要で、資金の使い道も制限されることから、A様は「母の意思を尊重しながら、家族で柔軟に動ける方法」を模索していました。
また、妹様は長年お母様と同居していたこともあり、実家に対する思い入れが強く、話し合いの場で主張がぶつかる場面もありました。A様としては、家族の間に立って冷静に話をまとめ、母の希望を形にしたいという思いがありました。
こうした背景から、A様は「母の財産を守りつつ、将来的な売却や相続をスムーズに進められる仕組みを整えたい」と考え、家族信託に詳しい司法書士を探し始めました。信頼できる専門家を比較検討する中で、家族信託の実績が豊富な司法書士法人さえき事務所にご相談いただくことになりました。
■当事務所からのご提案
A様からのご相談は、「母の施設費用を確保するために大阪の実家を売却したいが、母の年齢を考えると、売却までに判断能力が衰える可能性が心配」というものでした。
お母様は現時点で判断能力がしっかりしておられたため、将来に備えて今のうちに柔軟な管理体制を整えておくことが重要と判断しました。そこで当事務所では、**①家族信託の設計、②公正証書遺言の作成、③現状維持(放置)**という3つの選択肢を比較検討し、その中からお母様とご家族の希望に最も合致する「家族信託」をご提案しました。
まず、家族信託を採用する目的は、将来的にお母様の判断能力が低下しても、A様が代理ではなく“受託者”として、正当に不動産の売却・管理を行えるようにすることです。
成年後見制度と異なり、家庭裁判所の許可を得る必要がなく、売却代金を母の生活費や施設費に柔軟に充てることができる点が最大の利点です。
次に、A様ご家族の関係性を踏まえ、信託の仕組みを次のように設計しました。
- 委託者兼受益者(財産を託す人・利益を受ける人):お母様
- 受託者(財産の管理を行う人):A様(長男)
- 予備受託者(受託者に万一のことがあった場合の代理):妹様
- 信託財産:大阪府内の土地・建物および預貯金
- 帰属権利者(お母様が亡くなった後の財産の受取人):A様・妹様(等分)
- 第二順位帰属権利者:A様と妹様の子どもたち
この仕組みにより、母の生前中はA様が受託者として不動産や資金を管理し、売却や活用が必要になった際には速やかに実行できる体制を整えました。また、A様に万一のことがあっても、妹様が予備受託者として引き継げるようにすることで、長期的な安定性も確保しています。
さらに、お母様と妹様の関係性にも配慮しました。信託設計の打合せには、可能な限り三者全員に参加していただき、全員が同じ情報を共有しながら方向性を確認しました。とくに「不動産売却時は妹様も持分をもっているため、双方の協力が不可欠になる」という点を明確にし、信託内容と登記上の権利関係の整合性を丁寧に確認。最終的には全員の合意のもと、契約書案を固めることができました。
契約書は当事務所でドラフトを作成し、公証役場での公正証書化をサポート。信託契約締結後には、不動産の信託登記を行い、法的にも万全な形で信託を開始しました。
このように、今回のケースでは「母の将来への備え」と「家族間の調整」という2つの課題を同時に解決できるよう、法律的な枠組みと心理的なバランスの両面から支援を行いました。
今後の不動産売却の際も、必要に応じて法的サポートを継続していく予定です。
■お客様の声
遠方にある実家の売却を検討する中で、母が高齢であることが気がかりでした。
足が悪く長距離の移動が難しいことに加え、手続きの途中で認知症などになってしまうと売却ができなくなると聞き、不安を感じていました。
そんなとき、司法書士法人さえき事務所さんから「家族信託」という仕組みを提案していただきました。
説明を受けてみると、母の意思を尊重しながら、家族で柔軟に資産管理や売却ができる点が、私たちの希望にぴったりでした。
制度のしくみやリスクについても、専門用語を使わずわかりやすく説明してくださり、母も「これなら安心して任せられる」と納得してくれました。
今回の信託契約によって、今後もし母の判断能力が衰えても、私が受託者として手続きを進められるようになり、安心しています。
これから不動産の売却など具体的な手続きもありますが、その際もまたさえき事務所さんにお願いしたいと思っています。