事例の背景
K様のお母様(78歳)は町田市で一人暮らしをされており、近くに住むK様が定期的に様子を見に行っていました。しっかりした性格で家計管理もきちんとされていましたが、ここ1年ほど前から物忘れが増え、「通帳をどこにしまったか」「光熱費を支払ったか」が分からなくなることが増えてきました。K様は、「もしかしたら認知症の初期かもしれない」と不安を感じるようになりました。
いざという時に備えて対策を調べるうちに、「成年後見制度」の存在を知りました。しかし、制度を詳しく調べてみると、裁判所の監督が入り、日常的な生活費の支出にも制限があること、また第三者が後見人に選ばれる場合もあることが分かりました。そこでK様はお母様に相談しましたが、「知らない人にお金を握られるのは嫌。息子のあなただけを信用している」と強い意志を示されました。
お母様の気持ちを尊重しつつ、将来の財産管理の仕組みを整える方法を探していたところ、「家族信託」という制度を知りました。自分が受託者となって母の財産を管理できること、そして認知症になったとしてもスムーズに支出や管理が続けられる点に魅力を感じたK様は、家族信託の実績が豊富な司法書士法人さえき事務所へ相談することを決めました。
当事務所からのご提案
ご相談を受けた際、まずK様が抱えていた最大の懸念は「母が認知症になったら、生活費の支払いができなくなるのではないか」「預貯金を引き出せず、介護費用の支払いに困るのではないか」という点でした。一方でお母様は、「知らない人に財産を任せたくない」「自分の財産は自分の意思で管理したい」という強いこだわりを持たれていました。
私たちは最初に、成年後見制度と家族信託の違いを丁寧にご説明しました。成年後見制度では、認知症の発症後に裁判所の関与のもとで財産を管理するため、生活費や医療費の支出にも制限が生じることがあり、家族であっても自由に動かせないケースがあります。一方で家族信託は、元気なうちに信頼できる家族に財産の管理権限を託しておくことで、将来、認知症になっても生活資金の支払いを途切れさせずに続けられる仕組みです。
K様とお母様のご意向を踏まえ、当事務所では次のような信託設計をご提案しました。
- 委託者(財産の持ち主):お母様
- 受託者(財産を管理する人):K様
- 受益者(財産の利益を受ける人):お母様
信託財産としては、主に「自宅(土地・建物)」と「預貯金口座の一部」を設定しました。これにより、今後お母様が介護施設へ入居することになった場合でも、K様が自宅を売却して費用に充てることが可能となります。また、信託口口座を開設し、信託財産とK様個人の財産を明確に分けることで、管理の透明性を確保しました。
さらに、信託契約書には「お母様が亡くなった後、残った信託財産をK様が相続する」旨を定め、相続発生後の煩雑な手続きを避ける設計としました。これにより、将来相続が発生しても、信託財産については自動的にK様に帰属するため、スムーズな承継が可能になります。
契約締結にあたっては、お母様にも制度の内容を丁寧に説明し、「これは自分の希望通りの仕組みね」と安心して署名していただけました。信託契約後は、K様が信託口座を通じて生活費を管理し、お母様の生活支援を無理なく続けられる体制が整いました。
今回のケースでは、「自分の意思を尊重しながら、家族に迷惑をかけたくない」というお母様の想いと、「母を守りたい」というK様の想いが、家族信託という仕組みでしっかり形になった事例でした。
お客様の声
母が一人暮らしをしていることもあり、以前から「もし認知症になったらどうしよう」という不安がありました。成年後見制度も調べましたが、知らない人にお金を管理されることに母が強く抵抗を示し、どうすればいいか悩んでいました。
そんなときに家族信託という制度を知り、さえき事務所さんに相談しました。説明がとても丁寧で、私にも母にも分かりやすく、信託にすることでどんなメリットがあるのか、どんな準備をしておくべきかを一つずつ整理してもらえました。契約の内容も母の希望を尊重して設計していただき、「これなら安心して任せられる」と母も納得してくれました。
今では、私が信託口座を通じて母の生活費を管理しており、支払いの手続きなどもスムーズです。もし何も対策をしていなかったら、母が認知症になったときにすぐに動けず、生活費の支払いにも困っていたと思います。早めに相談して本当に良かったです。