事例の背景
I様は70代前半で、定年退職後は再婚した奥様と横浜市内で穏やかに暮らしていました。前妻との間には2人の成人したお子様がいますが、現在は独立しており、交流はあるものの、後妻との間には特に親しい関係はありません。I様は「いずれは財産を子どもたちに渡したい」と考えていましたが、一方で「妻の生活も守りたい」という思いも強くありました。
そのため、数年前に都市銀行で「遺言信託」を契約しました。しかし、契約後に内容を確認してみると、実態は公正証書遺言の作成サポートに過ぎず、手数料は高額なうえ、認知症発症後の財産管理や、再婚家庭特有の相続分配には対応できないものでした。I様は「これでは、妻の生活も、子どもたちへの承継も守れないのでは」と不安を感じるようになりました。
そんな折、懇意にしていた税理士に相談したところ、「遺言信託よりも柔軟で、認知症対策にも有効な“家族信託”という方法がある」と紹介され、家族信託の実績が豊富な司法書士法人さえき事務所へご相談いただくことになりました。
当事務所からのご提案
ご相談時のI様のご希望は、大きく3点ありました。
- 認知症になっても妻が生活に困らないようにしたい
- 妻の死後は、前妻との子どもたちに財産を残したい
- 相続トラブルを避け、家族に負担をかけたくない
まず、I様が契約されていた「遺言信託」の内容を確認したところ、単なる遺言書の作成支援であり、認知症発症後には財産が凍結される可能性が高いことが分かりました。また、遺言書だけでは「妻の生活を保障しつつ、最終的に子どもに財産を承継する」という二段階の相続設計は実現できません。
そこで当事務所では、受益者連続型の家族信託を活用した仕組みをご提案しました。
具体的には、次のような構成です。
- 委託者(信託財産の所有者):I様
- 受託者(財産を管理・運用する人):I様の長男
- 第一次受益者(I様の生存中の利益享受者):I様
- 第二次受益者(I様亡き後に財産から利益を得る人):後妻
- 第三次受益者(後妻の死後に最終的に財産を承継する人):前妻との子ども2名
このスキームにより、I様の生前は長男が財産を管理し、I様が生活費や医療費を自由に使うことができます。万が一認知症を発症した場合でも、信託契約に基づき長男が代わりに財産を運用できるため、資産が凍結するリスクを防ぐことができます。
I様が亡くなった後は、後妻が第二次受益者として引き続き生活費を受け取ることができ、生活の安定が確保されます。そして後妻が亡くなった時点で、信託財産は自動的にI様の子どもたちへ承継されるため、遺言書では実現できなかった「二段階承継」がスムーズに行われます。
また、信託財産の範囲については、自宅不動産と預貯金の一部を対象とし、その他の資産は遺言書で補完する設計としました。これにより、柔軟かつ確実に相続が行われる体制を構築しています。
信託契約書の作成にあたっては、I様ご本人だけでなく後妻・子どもたちにも内容を丁寧に説明し、全員が納得したうえで署名いただきました。特にI様は、「家族全員が一つの形でまとまれた」と安心された様子で、家族信託の仕組みが円満な相続設計の土台になることを実感されていました。
受益者連続型信託は、再婚家庭や複雑な家族構成において、誰の生活をどの段階で守るかを明確にできる有効な手段です。今回の事例では、「遺言信託では守れなかった安心」を、家族信託によって実現することができました。
お客様の声
これまで銀行で遺言信託を契約しており、「これで安心」と思っていましたが、実際に内容を確認すると、認知症になった場合のことや、再婚後の家族関係には対応できないことが分かりました。正直、かなりの費用を支払ったのに、ただの遺言書と変わらない内容でがっかりしていました。
そんな時に、税理士から「信頼できる司法書士がいる」と紹介してもらい、さえき事務所さんに相談しました。最初の説明で、遺言信託と家族信託の違いを分かりやすく整理してくださり、「これは自分の望む形が実現できる」とすぐに納得しました。特に、私が亡くなった後も妻の生活を守り、最終的には子どもたちに財産を残せる受益者連続型信託という仕組みを提案していただいたのが印象的でした。
契約書の内容も丁寧に作り込んでいただき、家族全員が納得して締結できました。いまは「もし自分に何かあっても、妻も子どもたちも困らない」と心から安心しています。もっと早くこの制度を知っていれば、無駄な費用もかけずに済んだのにと思うほどです。本当に感謝しています。