■事例の背景
B様のお母様が亡くなられたのは、ちょうどご自宅の老朽化が進み、住み替えを検討していた時期だったそうです。お母様名義の不動産をどう扱うか、兄弟3人で話し合いを重ねた結果、「売却して平等に分けよう」という方向で意見が一致しました。
当初は、相続税にも詳しいという大手税理士事務所に相談し、遺産分割協議書を作成してもらったそうです。しかし、内容を確認すると「不動産を長男であるB様が単独で相続する」という形でまとめられており、売却後に兄弟へ代金を分配する流れになっていました。B様も「とりあえず登記を済ませてから分ければいい」と思っていたとのことですが、インターネットで調べるうちに、「贈与税がかかる可能性がある」という情報を見つけ、不安を感じ始めたそうです。
「このまま登記してしまって本当に大丈夫なのだろうか」。
兄弟間での信頼関係を壊したくないという思いもあり、慎重に進めたいと考えたB様は、相続登記に詳しい司法書士を探すことにしました。そして「相続手続きに強い」と評判の当事務所へご相談いただくことになりました。
■当事務所からのご提案
B様からご相談を受けた際、まず確認したのは、すでに税理士が作成した遺産分割協議書の内容でした。文面上は「不動産をB様が相続する」とのみ記載されており、一見すると問題なさそうに見えます。しかし、このまま登記・売却を進めてしまうと、売却代金をB様から他の相続人へ分配した時点で「贈与」とみなされ、多額の贈与税が課税されるリスクがありました。
税務に精通しているはずの税理士がなぜこのような形を作成したのか不思議に思いましたが、おそらく「とりあえずB様が相続する」といった口頭でのやり取りをそのまま反映してしまったのだと推測されます。B様の本来の意向は「名義は自分にしても、実際の遺産は兄弟で平等に分けたい」というものであり、その真意を正しく反映できていないことが問題でした。
当事務所ではまず、B様と兄弟の皆様の希望を丁寧にヒアリングし、「どのような方法であれば税務上も法律上も安全に平等分割が実現できるか」を一緒に検討しました。その結果、**「換価分割」**という方法を採用することをご提案しました。
換価分割とは、相続人の共有名義のままでは売却が進まないため、一旦特定の相続人(今回であればB様)へ単独名義で登記を行い、その後に売却して得た代金を法定相続分に応じて分配する方法です。この形をとることで、実質的には「平等な相続」が実現しつつも、税務上は贈与とみなされないよう整理できます。
提案後、当事務所で新たに遺産分割協議書の文案を作成し、「登記名義をB様に変更する目的が換価分割によるものであること」「売却後は兄弟3名で法定相続分に基づき代金を分配すること」を明記しました。また、将来的に税務署から確認を求められた際にも説明ができるよう、分割協議書の文言を慎重に整備しました。
さらに、登記完了後の売却手続きも見据え、不動産業者との連携方法や売却代金の振込口座、分配の証憑(通帳記録・領収書)をどのように残しておくべきかについても、具体的にアドバイスしました。これにより、B様ご自身だけでなく、他の相続人も安心して手続きを進めることができました。
結果として、相続登記から売却・代金分配まで一連の流れがスムーズに進み、税務上のトラブルもなく、兄弟全員が納得のいく形で手続きが完了しました。
今回のように、「登記上は一人の名義にしたいが、実質は平等に分けたい」というケースは少なくありません。安易に「誰か一人に相続させる」としてしまうと、のちのち贈与税の問題が発生することもあるため、専門家による確認は欠かせません。相続登記を行う際は、登記だけでなく、その後の売却・分配まで見据えた設計が重要であるという典型的な事例でした。
■お客様の声
相続専門の税理士に作ってもらった遺産分割協議書に不備があると聞いたときは、本当に驚きました。自分では問題ないと思っていたのですが、そのままだと兄弟に売却代金を分けた際に多額の贈与税がかかる可能性があると知り、急いで相談してよかったと心から感じました。
さえき事務所さんには、「換価分割」という方法をわかりやすく説明していただき、登記や税務上の問題点を丁寧に整理してもらいました。兄弟にもきちんと説明してくれたおかげで全員が納得し、安心して手続きを進めることができました。
もしあのまま登記していたら、後で大きな税負担やトラブルになっていたと思います。相続登記は自分たちだけで判断せず、専門の先生に確認してもらうことの大切さを実感しました。