■事例の背景
S様のお母様が亡くなられたのは、闘病生活がひと段落した直後のことでした。S様はご両親と同居し、日々の介護や生活のサポートを担っており、お母様も「お世話になった長女に財産を託したい」との思いで公正証書遺言を残されていました。その遺言書には「すべての財産を長女Sに相続させる」と明確に記載されており、形式上は法的にも有効なものでした。
しかし、妹様がその内容を知った際、「母の気持ちは分かるけれど、何も相続できないのは納得できない」と不満を感じられたそうです。S様自身も「母の思いはありがたいが、妹と争いたくない」という気持ちがあり、どのように進めればよいか迷っておられました。
特に、遺言書がある場合には「その通りに従うしかない」と誤解される方も多く、S様も当初は「遺言書に逆らうと違法になるのでは」と不安に感じていたようです。相続登記の手続きを自分で調べようとしましたが、法的な手続きが複雑で、自分たちだけでは判断がつかないと感じ、専門家に相談することを決意されました。
相続に強い司法書士として評判の高い当事務所に相談したのは、「遺言を尊重しつつも、姉妹が納得して相続を終えたい」という思いからでした。
■当事務所からのご提案
S様からご相談を受けた際、まず確認したのは、公正証書遺言の内容と相続人の構成でした。遺言書には「全財産を長女S様に相続させる」と明記されており、形式的にも問題のない有効な遺言でした。しかし、その内容は他の相続人である妹様の遺留分を侵害しているものであり、このまま登記を進めれば、後から「遺留分侵害額請求」を受ける可能性がありました。
S様ご自身も「母の気持ちはありがたいが、妹ともめたくない」という意向をお持ちだったため、まずは「遺言書があっても、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる内容で遺産分割協議をすることができる」点を丁寧にご説明しました。遺言書に“遺産分割の禁止条項”がなければ、相続人同士の合意により、柔軟な分割が可能です。
そこで当事務所では、姉妹それぞれのご希望を伺いながら、感情面にも配慮した解決案を一緒に検討しました。お母様の遺志を尊重しつつ、妹様の納得感も得られるように、最終的に「不動産はS様が相続し、預貯金などの金融資産は妹様が相続する」という分け方をご提案しました。
この方法により、遺言の精神(同居して世話をしていたS様に自宅を残す)を守りつつ、金銭面での公平性も確保できます。また、遺留分を侵害しない形での調整となるため、法的にも安心して手続きを進めることが可能でした。
当事務所では、双方のご意向を丁寧に取りまとめ、新たに遺産分割協議書を作成。その内容に基づいて相続登記の申請を行いました。遺言書が存在する場合でも、このように全員の同意があれば柔軟な対応ができることをS様にもご理解いただき、「これで姉妹仲良くいられる」と安心されたご様子でした。
また、今回のケースから見えてくるのは、遺言書を作成する段階での配慮の重要性です。
たとえ善意からの遺言であっても、他の相続人の感情や遺留分への影響を考慮しないと、結果的に家族間の関係性を損なう原因にもなりかねません。
相続登記の実務では、単に「法的に正しい手続き」を行うだけでなく、家族関係を守るための設計も非常に大切です。当事務所では、遺言の内容に問題がある場合でも、相続人全員が納得できる形を一緒に考えるサポートを行っています。
結果として、S様・妹様ともに納得した形で相続登記が完了し、お母様の思いを大切にしながら、姉妹の関係も良好なまま円満に手続きを終えることができました。
■お客様の声
母が自分のために残してくれた遺言書の内容を知ったとき、正直とても戸惑いました。母の気持ちはありがたかったのですが、妹とこれからも良い関係を続けたかったので、このままでは関係が悪くなってしまうのではと心配でした。
そんなとき、さえき事務所さんに相談して、「遺言書の内容を絶対にそのままにしなければならないわけではない」と教えていただき、ほっとしました。遺言書を尊重しつつ、姉妹が納得できる形で分ける方法を一緒に考えてくださり、とても安心して手続きを進めることができました。
もし専門家に相談していなかったら、法律的にどうにもならないと思い込んで、妹ともぎくしゃくしていたかもしれません。本当に相談して良かったです。