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弁護士が他の相続人の住所を依頼者に開示した場合の責任について

  • 投稿:2025年09月19日
弁護士が他の相続人の住所を依頼者に開示した場合の責任について

今回は、弁護士が相続事件の処理に際して戸籍附票を取得し、依頼者に交付したところ、その依頼者が他の相続人の自宅を直接訪問し、相手方に困惑を与えたという事例を題材に検討いたします。

この事例は、弁護士の行為が「職権乱用」に該当するのか、あるいは「守秘義務違反」に当たるのかといった問題意識につながります。戸籍附票という公的書類の性質や、弁護士が依頼者に情報を提供する範囲、さらにはその利用方法に関してどのような法的・倫理的な責任が問われ得るのかについて、順を追って整理いたします。

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戸籍附票の性質と相続手続における必要性

戸籍附票とは、本籍を基準として、その者の住所の履歴を記録した公的証明書です。本籍地を変更しない限り、過去から現在に至るまでの住所移転の経過がすべて記載されます。

相続実務においては、不動産登記簿上の住所と現住所を突合するため、また共同相続人の所在を確認するために極めて有用な資料です。そのため、弁護士・司法書士・行政書士等の一定の国家資格者は、依頼を受けた業務の範囲において、他人の戸籍謄本や戸籍附票を職権で取得することが認められています。

したがって、弁護士が相続事件を受任し、相続人調査の一環として附票を請求すること自体は適法であり、職権乱用に該当するものではありません。

依頼者への開示とその限界

問題は、取得した附票を依頼者に交付した点にあります。依頼者は共同相続人であり、相続人関係を把握するために必要な範囲で情報を知る正当な利益を有しています。その意味において、戸籍謄本や附票の情報を依頼者に開示すること自体は直ちに違法とは評価できません。

しかし、附票には相続人の現住所が記載されており、これは極めてセンシティブな個人情報です。当該情報を得た依頼者が、専門家を介さずに他の相続人宅を直接訪問すれば、相手方に相当な心理的負担を与え、場合によっては不法行為やハラスメント的行為と評価され得ます。

弁護士は依頼者に対し、情報をどのように利用すべきか、また直接訪問等は控えるべきである旨を十分に説明する義務があったと考えられます。単に資料を交付するにとどまり、利用方法について何らの指導を行わなかったとすれば、職務上の配慮を欠いた対応と指摘されてもやむを得ません。

守秘義務および個人情報保護の観点

弁護士には守秘義務が課されており、依頼業務を通じて知り得た秘密を第三者に漏らしてはならないとされています。本件では、依頼者本人に情報を交付したに過ぎないため、形式的には守秘義務違反には該当しません。

もっとも、個人情報保護の観点からすれば、取得した情報を依頼者がどのように利用するかを適切に制御する責務があると考えられます。目的外利用を防ぎ、他の相続人に不利益を与えないよう配慮することこそ、専門職に求められる姿勢でしょう。

従って、違法行為とまでは直ちに評価できないとしても、弁護士倫理上・職務遂行上の不適切な対応であった可能性は否定できません。

突然訪問を受けた側の対応

仮に他の相続人から突然自宅を訪問され、困惑した場合の対応としては、以下のような方法が考えられます。

  1. 直接応対を避け、文書等での連絡を求める
    書面を介してやりとりすることで、感情的対立や誤解を防ぐことができます。
  2. 代理人の関与を要請する
    自らも弁護士を代理人に立て、代理人間で交渉を進める体制を整えることが望ましいです。
  3. 弁護士会の相談窓口を利用する
    弁護士の対応に疑義がある場合、各地の弁護士会に設けられた相談窓口で助言を受けることが可能です。

弁護士の責任の有無

結論として、本件における弁護士の行為は、附票の取得自体が適法である以上、直ちに職権乱用や守秘義務違反と評価することは困難です。ただし、依頼者が情報を不適切に利用することを予見できたにもかかわらず、十分な指導を行わなかった点は問題であり、弁護士倫理上の配慮不足と評価され得ます。

したがって、違法性の有無というよりも、職務上の適切性としての妥当性が問われる領域といえます。

相続実務における留意点

相続手続は法的側面のみならず、相続人間の人間関係の調整を含む複雑な問題を内包しています。

  • 専門家を通じた連絡調整
    相続人同士が直接やり取りすることは、感情的な対立を招きやすいため、司法書士や弁護士といった専門家が橋渡し役となることが望まれます。
  • 情報開示の段階的実施
    特に現住所などのプライバシー性の高い情報は、代理人を介して慎重に伝えるなどの段階的配慮が必要です。
  • 早期の専門家相談
    不安を覚えた場合には、まずは司法書士や弁護士に相談し、必要に応じて適切な専門家へと引き継ぐことが肝要です。

まとめ

本件の事例は、弁護士による「職権乱用」や「守秘義務違反」と断定できるものではありません。しかしながら、依頼者に対する説明不足や情報管理への配慮の欠如によって、他の相続人に心理的負担を与える結果となった点は看過できません。

相続実務においては、専門家が依頼者と他の相続人との間に立ち、適切な情報の扱い方を指導し、トラブルを未然に防止することが重要です。万が一同様の状況に直面した場合には、代理人を通じた交渉や弁護士会の相談窓口の活用など、冷静かつ法的に整合的な対応を取ることが推奨されます。

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