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[遺言・後見・家族信託]

家族信託は遺留分対策になる?司法書士が正直に解説します。

  • 投稿:2026年04月30日
家族信託は遺留分対策になる?司法書士が正直に解説します。

「家族信託をすれば、遺留分の問題を回避できると聞いたのですが、本当ですか?」

相続のご相談をいただく中で、こうした質問をいただくことが増えています。インターネット上にも「家族信託で遺留分対策ができる」という情報が見受けられますが、結論から言えば、原則として家族信託は遺留分対策にはなりません。

この記事では、遺留分の基本的な意味から、家族信託と遺留分の関係、そして遺留分トラブルを防ぐための現実的な対策まで、専門用語をできるだけ使わずに、わかりやすく解説します。

※動画でも解説していますので是非ご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします!!

そもそも「遺留分」とは何か

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人が法律によって最低限受け取ることを保障されている相続財産の割合のことです。

たとえば、遺言書に「全財産を長男に渡す」と書いてあったとします。しかし他に次男や三男がいた場合、彼らは「遺留分侵害額請求」という手続きを使って、長男から自分の遺留分に相当する金額を取り戻す権利があります。

口頭で「お兄ちゃんが全部もらっていいよ」と話し合っていたとしても、気持ちが変われば将来的に請求される可能性を完全には排除できません。それほど強力な権利です。

【遺留分が認められる相続人】

・配偶者(夫・妻)

・子ども(および孫などの代襲相続人)

・直系尊属(父母・祖父母など)

一方で、兄弟姉妹には遺留分がありません。独身の方が亡くなってその兄弟姉妹が相続人になる場合や、子どものいない夫婦の一方が亡くなって配偶者の兄弟姉妹が相続人になる場合は、遺留分の問題は生じません。

【遺留分の割合の目安】

相続人の構成によって遺留分の合計割合は異なりますが、基本的には「法定相続分の半分程度」が目安です。ただし、相続人が直系尊属(親・祖父母)のみの場合は相続財産の3分の1となり、やや少なくなります。

家族信託とは何か——簡単におさらい

家族信託とは、信託法という法律に基づいて、自分の財産の管理や処分を、信頼できる家族(受託者)に任せる仕組みです。

たとえば、父親が所有するアパートを息子に信託した場合、アパートの管理や売却などの手続きは息子が行いますが、家賃収入は引き続き父親が受け取ることができます。管理の手間は任せつつ、利益は自分が得るという柔軟な設計が可能です。

また、父親が亡くなった後は母親へ、母親が亡くなった後は孫へ——というように、財産の承継先をあらかじめ複数世代にわたって設定しておくこともできます。

なぜ「家族信託=遺留分対策」という話が広まったのか

家族信託が普及し始めた当初、「信託財産は遺留分の計算対象にならないのではないか」という議論が専門家の間でなされていました。その名残りで、いまも「家族信託をすれば遺留分を回避できる」という情報がインターネット上に残っているのだと思われます。

しかし現在の実務や学説の主流な見解では、信託財産はみなし相続財産として遺留分の計算に含まれると考えられています。

「最高裁判所の判例がまだない」という点は事実です。ただ、地方裁判所レベルでの判断はあり、遺留分の対象になるという方向で見解が固まりつつあります。

もし「家族信託をすれば遺留分の問題は消えます」と説明する専門家がいるとすれば、その説明は現時点では正確ではありません。こうした情報には注意が必要です。

例外的なケース——受益者連続型信託の場合

ひとつだけ例外的な話をします。「受益者連続型信託」という特殊な形の家族信託です。

受益者連続型信託とは、財産から生まれる利益(受益権)を受け取る人を、複数世代にわたってあらかじめ定めておく信託の形です。

たとえば——

・第一段階:父が受益者

・第二段階:父が亡くなったら母が受益者

・第三段階:母が亡くなったら子どもが受益者

このような設計をした場合、「父→母」という最初の移転(一次承継)については、遺留分の対象になる可能性が高いというのが多数の見解です。

一方、「母→子ども」という二度目の移転(二次承継)については、母はそもそも受益権を相続で取得したわけではなく、最初の信託契約で行き先が定まっていたものだという理由から、遺留分の対象にならないとする見解もあります。

ただし、この点も最高裁の判例はなく、確立した結論には至っていません。専門家として、この仕組みを「遺留分対策」として積極的にお勧めする段階にはないというのが、現時点での正直な評価です。

では、家族信託は何のために使うのか

「遺留分対策にはならないなら、家族信託は意味がないのでは?」と思われるかもしれません。しかし家族信託には、遺留分とは別の重要な役割があります。

【1. 認知症対策として非常に有効】

認知症になると、本人の判断能力が低下し、預金の引き出しや不動産の売却などが事実上できなくなってしまいます。法律上の手続きとして「成年後見制度」がありますが、費用や手続きの煩雑さ、柔軟性のなさが課題として挙げられます。

家族信託を事前に組んでおけば、認知症になった後も、信頼できる家族が財産の管理を継続できます。本人が選んだ家族が、本人の意向に沿って管理を行えるという点で、成年後見よりも柔軟かつ低コストで運用できるケースが多くあります。

【2. 二次・三次相続の設計ができる】

通常の遺言書で指定できるのは「自分が亡くなった後、誰に財産を渡すか」という一度限りの設計です。しかし家族信託(受益者連続型)を活用すれば、「自分→配偶者→子ども→孫」というように、複数の世代にわたる承継のルートをあらかじめ設計しておくことができます。

【3. 不動産の「塩漬け」を防ぐ】

認知症になってしまった場合、不動産は売りたくても売れない状態になります。これが「不動産の塩漬け」問題です。家族信託を組んでおくことで、受託者である子どもが売却・賃貸などの管理を継続して行えるようになります。

遺留分トラブルを防ぐための、現実的な3つの対策

家族信託が遺留分対策にならないとすれば、実際にどんな方法が有効なのでしょうか。現実的な3つの対策をご紹介します。

【対策1:生前の遺留分放棄(家庭裁判所の許可が必要)】

相続が始まる前であっても、家庭裁判所の許可を得ることで、相続人が遺留分をあらかじめ放棄することが可能です。

たとえば次男が生前に財産を多く受け取っていたなど、正当な理由があれば、家庭裁判所がこれを認める場合があります。次男が遺留分を放棄しておけば、遺言書で長男に全財産を渡すと定めていても、後から遺留分侵害額請求をされる心配がなくなります。

ただし、家庭裁判所の審査は厳格です。「なぜ放棄するのか」という合理的な理由がなければ認められません。実務的にはあまり多くないケースです。

【対策2:生命保険の活用】

死亡保険金は、原則として相続財産には含まれません。受取人として特定の家族を指定することで、実質的に財産を渡すことができ、かつその分は遺留分の計算対象になりません。

ただし、あまりにも極端な活用——たとえば全財産を生命保険に変えて特定の一人に渡すような設計——は、遺留分侵害とみなされる可能性があります。バランスを意識した活用が重要です。

【対策3:遺留分に配慮した遺言書+付言事項】

遺言書を作成する際に、遺留分を侵害しないよう計算した上で各相続人の取り分を設計することが、最も基本的かつ現実的な対策です。

さらに「付言事項(ふげんじこう)」として、なぜそのような配分にしたのかを遺言書に書き添えることも効果的です。付言事項に法的な効力はありませんが、親の気持ちが伝わることで、家族間のトラブルを防ぐ力があります。

「長男には長年にわたり介護を担ってもらったため、感謝の気持ちを込めて多めに渡したい」——そのような理由が丁寧に記されていれば、他の相続人も納得しやすくなることがあります。

まとめ

この記事のポイントを整理します。

・家族信託は、原則として遺留分対策にはならない

・受益者連続型信託の二次承継については「対象外」とする学説もあるが、判例は未確立であり、遺留分対策として積極的に活用するのは現時点では避けた方がよい

・家族信託が本当に力を発揮するのは、認知症対策・多世代にわたる相続設計・不動産の塩漬け防止

・遺留分トラブルへの現実的な対策は、①遺留分の生前放棄、②生命保険の活用、③遺留分に配慮した遺言書+付言事項

「家族信託で遺留分を消せる」という説明には、くれぐれもご注意ください。

家族信託も遺言書も、それぞれに得意なこと・苦手なことがあります。ご自身の状況に合った方法を選ぶためには、専門家への相談が一番の近道です。相続に関するご不安やご疑問がある方は、お気軽にご相談ください。

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