[遺言・後見・家族信託]
「生前対策は“必ず”やるべき?」――あえて何もしないという選択肢を司法書士が本音で解説
- 投稿:2025年12月23日
「生前対策は早くやった方がいい」
相続や認知症対策の情報を調べていると、こうした言葉を何度も目にすると思います。
家族信託、任意後見、遺言書――
確かに、これらは非常に有効な制度であり、私自身も司法書士として「やった方がいい生前対策」をこれまで数多く発信してきました。実際、家族信託については書籍も出版し、積極的に活用をおすすめしています。
ただ今回は、少し視点を変えたお話をします。
「あえて、生前対策をしない」という選択肢も、実は間違いではないというテーマです。
※動画でも解説していますので是非ご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします!!
目次
生前対策は本当に「全員必須」なのか?
まず大前提として、認知症対策としての生前対策は、多くの方にとって有効です。
代表的な制度としては、
- 任意後見
- 家族信託
この2つがよく知られています。
これらは、自分の財産を信頼できる家族や第三者に託して管理してもらう制度です。
「知らない人に財産を管理されたくない」
「将来、家族が困らないようにしたい」
こうした想いをお持ちの方には、非常に合理的な仕組みです。
そのため、基本的には生前対策はやった方がいい。
これは、これまで私が一貫してお伝えしてきた考え方です。
ただし――
それでもなお、「何もしない」という選択が合理的なケースも存在します。
あえて生前対策をしない理由①
そもそも「任せられる人」がいない
任意後見や家族信託は、任せる相手がいることが前提の制度です。
しかし実務では、
- そもそも家族がいない
- 子どもはいるが遠方に住んでいる
- 家族関係が良好とは言えない
といったケースは決して珍しくありません。
無理に「誰かに任せる」前提で制度を作るよりも、
最初から裁判所が関与する制度に委ねるという考え方も、十分現実的です。
あえて生前対策をしない理由②
最後まで元気でいられる可能性もある
誰しもが認知症になるとは限りません。
亡くなる直前まで自分のことは自分でできる――いわゆる「ピンピンコロリ」の人生を送る方もいます。
この場合、
- 家族信託をしたけれど必要なかった
- 任意後見契約を結んだけれど発効しないまま終わった
ということも十分にあり得ます。
「使わないかもしれない制度に、今お金と労力をかけるかどうか」
これをどう考えるかは、価値観の問題でもあります。
あえて生前対策をしない理由③
家族に負担をかけたくない
家族信託をすると、受託者(財産管理を任される人)には、
- 信託登記
- 預金管理
- 帳簿作成
- 税務対応
など、想像以上の負担がかかります。
「子どもには自分のことで苦労してほしくない」
「お金は払ってもいいから、専門家に全部任せたい」
こうした考え方の方も、実際にはとても多いのです。
何もしなかった場合に使われる制度「法定後見」
生前対策をしないまま認知症になった場合、利用されるのが法定後見制度です。
これは裁判所が後見人を選任し、財産管理を行う制度です。
これまで、このホームぺージの記事やYouTube動画でも法定後見の「デメリット」を中心にお伝えしてきましたが、
実はメリットも確かに存在します。
法定後見のメリット①
任せる相手がいなくても必ず機能する
これが最大のメリットです。
家族がいなくても、裁判所が必ず後見人を選んでくれます。
法定後見のメリット②
家族の実務的な負担が大きく減る
専門職後見人(司法書士・弁護士など)が選任されれば、
- 預金管理
- 不動産売却
- 各種契約
といった煩雑な手続きは、ほぼすべて任せることができます。
確かに毎月数万円程度の報酬は発生しますが、
「家族の負担軽減」と割り切れば、十分に合理的な選択です。
法定後見のメリット③
裁判所による強い監督がある
法定後見では、後見人の行動は裁判所が厳しくチェックします。
勝手に財産を使うことはできません。
「誰かに騙されるのが不安」
「家族間トラブルが心配」
こうした方にとっては、公的な監督がある安心感は大きなメリットになります。
ただし「何もしない」場合の注意点
もちろん、生前対策をしないことにはリスクもあります。
- 銀行口座が凍結される
- 不動産の売却や賃貸ができなくなる
- 施設入所や入院契約が進まない
- 相続税の納税資金が動かせない
こうした問題は、事前対策をしていれば防げるものです。
大切なのは、
リスクを理解した上で「何もしない」と決めることです。
まとめ:生前対策に「絶対の正解」はない
結論として、
- 信頼できる家族がいる
- 柔軟に不動産を動かしたい
- 将来のリスクをできるだけ減らしたい
こうした方は、家族信託や任意後見を強くおすすめします。
一方で、
- 任せられる人がいない
- 家族に負担をかけたくない
- プロに任せた方が安心
- 最後まで元気でいられる可能性を信じたい
こうした方にとっては、
あえて何もしない → 必要になったら法定後見を使う
という選択も、十分に「正しい判断」です。
生前対策は「やらなければいけない義務」ではありません。
大切なのは、自分の人生にとってどの選択が一番心地いいか。
このコラムが、その判断材料のひとつになれば幸いです。
迷われた場合は、状況に応じた選択肢を整理するお手伝いもできますので、ぜひご相談ください。