[遺言・後見・家族信託]
家族信託のデメリット
- 投稿:2024年08月20日
平成19年に現在の信託法が施行され、現在(令和6年)で約17年が経ちました。
従来の信託法に比べて非常に柔軟性を持った仕組みとなり、実務で運用されるようになったのは平成28年頃からでしょうか。
司法書士の業界でもこれは司法書士が担うべき業務ということで実務セミナーや書籍も多く出版されました。
この流れに乗るような形で士業コンサル会社がこぞって司法書士向けに家族信託を事務所のメイン業務にしましょうといった内容の広告やセミナーの案内が送られてきたことも記憶に新しいです。
さて、良い面ばかりがフォーカスされている家族信託ですが、今回は悪口を書いていこうと思います。
※動画でも解説していますので是非ご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします!!
目次
後見制度の代替手段として注目
家族信託が司法書士等の専門家の中で普及した要因は、世間からの成年後見制度への不満が大きかったからだと考えられます。
成年後見制度への不満を家族信託がカバーできるのでお客様へご提案した場合にニーズにマッチすることが多いのです。具体的には次のようなものです。
①不動産などの財産管理を信頼した人に任せることができる
成年後見制度では家庭裁判所が選任した後見人等が本人の財産管理を行います。
家族信託以外の認知症対策の方法として任意後見というものもあります。任意後見であれば本人があらかじめ指定した人に財産管理を任せることができるのですが、後述する裁判所に監督されるデメリット等があります。
家族信託の場合、原則として本人(委託者)と財産管理者(受託者)の間の契約によることになるので第三者に財産管理者を決められるといったことはありえません。
②裁判所の監督がない
家庭裁判所から選任された後見人等は定期的に財産管理等の状況を裁判所へ報告しなければなりません。
任意後見契約の場合であっても後見監督人は必ず家庭裁判所から選任されるので、間接的に裁判所の監督下に置かれることになります。
家族信託であれば本人と財産管理者(受託者)の間の契約で成立し、裁判所に対する報告は必要ありません。
③ランニングコストがかからない
成年後見制度では司法書士等の専門職が後見人等となった場合には報酬が発生します。
財産規模にもよりますが月額3万円程度の報酬が、原則として本人が亡くなるまで発生することになります。
仮に10年間、司法書士が後見人として業務を行った場合だと、36万円/年×10年=360万円の後見人への報酬が発生することになります。
家族信託であれば財産管理者(受託者)の報酬はゼロにすることも可能なのでランニングコストをかからないようにすることも可能です。
④信託した財産の処分が容易で場合によっては資産運用も許容される
成年後見制度(任意後見含む)では、本人の財産の管理と諸事情がある場合の処分(売却等)が認められるだけであって、資産運用などはNGです。
例えば更地にしている土地の上に新築のアパートを建てて本人の資産を運用し、相続税対策をしたい、こんなことは絶対できません。しかし、家族信託であれば信託の目的に添うのであれば資産運用も許容されます。
売却等の処分に関しても家庭裁判所へ許可を求めたりせずに、財産管理者(受託者)が単独で行うことができます。
家族信託のデメリット
さて、以上のように後見制度より一見メリットが多く、家族信託最高!と叫びたくなるのですが、良いところばかりではありません。
また、専門家フィーが高額なこともありメリットが押し出されることが多いのです。
かくいう弊社も家族信託専門のサイトをもっていてそこにはメリットを多く記載しています。
専門家フィーが高額になること以外に以下のようなデメリットもあります。
①信託できる財産には制限がある
全ての財産を受託者に任せることはできません。
例えば、負債などマイナスの財産は信託できませんし、担保付きの不動産や農地など信託することが現実的に難しいものもあります。
②身上監護権がない
成年後見制度のメリットとして財産管理だけではなく、本人の身の回りのことを代理する身上監護権があることが挙げられます。身上監護には、例えば、本人の住居の確保や生活環境の整備、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続などがあります。
家族信託の受託者には身上監護権がなく、信託行為で定めた財産の管理・運用・処分しかできません。
③制度としてまだ新しいので信託契約後の事例が少ない
最初に述べたように平成28年頃からやっと普及してきた制度になるため、信託契約締結後に実際に認知症が発症した、死亡したなど、本当の意味で信託が効力を発揮する場面の事例が少ないのです。
その為、家族信託の契約内容に対してもめごとが起きたときの判例も少ないのでどのようなイレギュラーなことが起きるのか想定できないこともあります。
④柔軟性が高い分、「策士策に溺れる」可能性がある
家族信託は非常に柔軟性の高い制度で、色々なスキームを検討することができます。
しかし、前述のとおり信託契約後の事例が少ないため、あまり複雑なスキーム設計をした場合に実際その効力が否定される可能性があるので「策士策に溺れる」ことになりかねません。
結論
結論としては、家族信託の良いところばかりを見て視野が狭くならないようにしなければなりません。
これは我々専門家に対しても言えることです。
家族信託は良いことばかりではないのでデメリットもきちんとあることを知っておきましょう。
そして、家族信託の良いところばかりを伝えて、他の選択肢を検討しないような専門家ではなく、家族信託のデメリットもきちんと伝えてくれる専門家に依頼するようにしてください。
今回は家族信託のデメリットをメインのテーマとしましたが、現状の成年後見制度が不十分な部分も多く、そこを補填する制度としては素晴らしいものでもあります。
場合によっては成年後見制度と併用することも検討しなければなりません。
重要なことは、家族信託ありきで目的を達成しようとするのではなく、目的(お悩みの事への解決)に対して必要な制度を当て込んでいくことだと思います。
ここは専門家の腕の見せ所になりますので、是非一度ご相談にお越しください。