[遺言・後見・家族信託]
自筆証書遺言の保管制度について解説します
- 投稿:2024年10月01日
自筆で作成した「自筆証書遺言書」は紛失や改ざんリスクというデメリットがありますが自筆証書遺言保管制度を使えばこういったリスクを排除することができます。
制度開始から少し時間が経ちましたが改めてこの自筆証書遺言保管制度について相続専門の司法書士が解説します。
※動画でも解説していますので是非ご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします!!
目次
自筆証書遺言書の保管制度とは?
自筆証書遺言書の保管制度は、令和2年7月10日にスタートしました。
そもそも遺言は、自分が死亡したときに相続人等に対して、財産をどのように分配するか等について、自己の最終意思を明らかにするものです。
これにより、遺産の承継がスムーズに行われるため相続をめぐる争いを事前に防止することができたり、相続発生後の各種相続関係の手続きを楽に行うことができます。
遺言の方式は大きく分けて二つ、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
公正証書遺言はこれまで我々のような相続の専門家が一番おすすめしていた遺言の方式になります。
公正証書遺言は公証役場で作成されて、原本が公証役場に保管されていました。
自筆証書遺言は遺言者が自分自身で誰の関与も必要とせずに作成できるものです。
公正証書遺言のように公証役場が保管してくれるもではないので自分自身で管理しなければなりませんでした。
その為、次のような問題点がありました。
- 遺言書を紛失するおそれがある
- 遺言書の廃棄、隠匿、改ざんが行われるおそれがある
- 相続発生後に誰にも気づかれず発見されないことがある
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言書を作成した本人が、遺言書の保管の業務を取り扱っている所定の法務局(遺言書保管所)に出向いて、遺言書の保管を申請することができる制度となります。
遺言書保管制度のメリット
遺言書保管制度を利用すると次のようなメリットがあります。
①紛失や内容を見られるのを防ぐことができる!
自筆証書遺言書を自宅で保管した場合、紛失するおそれがありますが、この制度は遺言書保管所によって、自筆証書遺言書の原本と画像データの2種類の方法で保管されますのでその点安心です。
さらに、遺言者の死後でなければ相続人や受遺者等から遺言書の閲覧の請求はできませんので、勝手に開封されてしまうおそれがありませんし、廃棄されたり、改ざんや隠匿されるおそれもありません。
②検認が不要になる!
自筆証書遺言の場合、遺言書が見つかったら家庭裁判所に申立てをして、その遺言書が法律に定める様式に合っているかのチェックを受ける必要があります。
これを検認と呼びます。
この検認の手続きは、およそ1ヶ月ほどかかり、その間は相続手続きを進められません。
特に令和元年7月1日の民法改正によって、早く登記しないと遺言書で不動産を相続した人が保護されない可能性があります。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
民法第899条の2
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
例えば、遺言書で不動産を長男が相続することになっている場合でも、二男が遺言書を無視して法定相続分どおり長男50%・二男50%で相続登記したうえで、自己の持分のみを処分することができます。
こんなことができるのかと思うかもしれませんが、できてしまいますし、この場合、長男は自己の法定相続分を超える部分については第三者に対抗できなくなります。
これは相続人にとってデメリットといえます。
しかし、自筆証書遺言書を遺言書保管所で保管した場合は、この検認が不要となるので、手早く相続の手続きができますので、こういったリスクの軽減にもなります。
③発見が容易になる!
公正証書遺言書であれば遺言書の有無を含めて最寄の公証役場に相続人等が照会をかけることができます。
自筆証書遺言書ではこのようなことができずに、遺言者があらかじめ相続人等に遺言書の存在や保管場所を伝えておかないと発見されないということがありました。
今回の保管制度によって、遺言者が亡くなった後、遺言書の保管の業務を取り扱っている最寄りの遺言書保管所で、被相続人の自筆証書遺言書が保管されているかどうかの確認ができるようになりました。遺言書の有無や内容を早急かつ簡単に調べることができます。
自筆証書遺言書保管制度の流れ
遺言書がなければ始まりませんので、まずは遺言書を書きましょう。
自筆証書遺言書は、全文自筆、日付と押印が最低限の要件です。
この方式を満たさない自筆証書遺言書は「単なるお手紙」ですので法的な効力はありません。
保管よりなによりここが一番重要なのは変わりありませんのでしっかりとした内容の遺言書を書きましょう。
なお、財産目録に関してはパソコンで作成したものでも問題ありません。
②保管の申請をする遺言書保管所を決める
遺言を書く人によって遺言書保管所の管轄というものがあります。
次の中から選びます。
- 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者が所有する不動産所在地を管轄する遺言書保管所
このいずれかになります。
また、遺言書保管所=法務局ですが、全法務局の出張所や支局で遺言書を保管することはできません。
例えば町田市であれば東京法務局八王子支局が管轄となります。
その他の管轄は以下のリンクを参照して下さい。
http://www.moj.go.jp/content/001319026.pdf
③遺言書保管申請書を作成する
保管申請に際しては申請書が必要となります。
遺言者の情報(氏名・住所など)や相続人の情報などを記載します。
以下のリンクからダウンロードできます。
http://www.moj.go.jp/content/001321933.pdf
④保管申請の予約をする
いきなり遺言書保管書にいっても受け付けてくれない場合があったり、長時間待たされたり、出直ししなければならなかったりします。
電話やインターネットで予約ができますので、必ず予約してから行きましょう。
法務局手続案内予約サービス:https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/top/portal_initDisplay.action
⑤保管の申請をする
いよいよ遺言書保管書に出向いて保管の申請をします。
この際に次の書類を用意していきましょう。
- 自筆証書遺言書
- 申請書
- 本籍地入りの住民票
- 身分証明書(写真付きのもの:運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなどをいずれか1点)
- 手数料3,900円
保管申請時の注意点ですが、まず自筆証書遺言書の内容に関して、遺言書保管所では一切チェックしてもらえません。
ですので、無効な内容の遺言書を保管してしまう可能性はあるということになります。
この点、公正証書遺言書であれば公証人が内容確認のチェックをしてくれますので内容面での使い物にならないということにはならないことと対照的です。
このデメリットを無くすためには司法書士等の専門家に依頼されることをおすすめ致します。
次に、保管申請は代理人での申請が認められません。
これは遺言者の意思を確認しなければならないからです。
必ず遺言者本人が遺言書保管所に出向く必要があります。
最後に、身分証明書も写真付きのものを要求されますので運転免許証やマイナンバーカードを持参しましょう。
⑥保管書を受け取る
保管書は相続人に渡すなどしておくと相続発生後の遺言書情報証明書の発行手続きがスムーズになりますので差支えがなければ渡しておいても良いでしょう(遺言書の内容は相続発生後でしか相続人等は見ることができませんので)。
最後に
公正証書遺言書を進める理由の一つとして検認が不要で相続発生後の手続きがスムーズに行えるというものがありました。また、紛失や改ざんのリスクがないということも理由としてあったのですが、これらを今回の遺言書保管制度はカバーできる内容になっています。
一つだけ従来と変わらないとすれば、遺言書の内容についてです。
遺言書の内容までは遺言書保管所はチェックしてくれませんので、より信頼性の高い方式の遺言書を作りたいという方には、従来通り公正証書遺言にするか、自筆証書遺言書の作成段階で司法書士にご依頼ください。
近年の終活への関心の高まりから、遺言書について考える方も増えてきていますが、実務をやっている感覚からは遺言書の普及はまだまだだと感じています。
遺された大切な家族のためにも是非きちんとした遺言書を遺してあげることを検討してみて下さい。
遺言書の作成を思い立ちましたら、お気軽にお問い合わせください。