[相続]
相続放棄の悲惨な事例について
- 投稿:2024年12月17日

相続が発生すると、相続人はプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も受け継がなくてはなりません。相続放棄は、被相続人が多額の借金を残していた場合に救済するための制度ですが、法律を知らないとと悲惨な結果を招くことがあります。
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相続放棄の落とし穴
相続放棄を簡単に説明すると、家庭裁判所に法定の書類を出して、それが受理されることで、その人はもともと相続人ではなかったという扱いになり、プラスの財産も、借金などのマイナスの財産も一切相続しないことにできる制度です。
単に、遺産を受け取らないことを相続人の間で合意する「遺産放棄」とは異なり、正式な相続放棄は、相続放棄した人は相続の始めから相続人として存在していなかった形となります。
事例で説明します。
【事例】
・被相続人:父
・相続人:母・息子
・遺産:父名義の自宅不動産
・その他:父には不仲の弟がいる

息子は自分の家庭を持っているので、実家には母が一人で残されることになります。その自宅の名義は亡き父のものなので、そこに母が住み続けるとなれば名義変更をしなくてはありません。ここまではよくある話です。
今回の相続では、もともと父の遺産は母に全部相続させようという話になっており、亡き父は借金がないことも聞いていました。ただ、この息子が法律を少し学んだことのある人物で、相続放棄という制度があることを知っていました。
そこでこんな提案をします。
「万一、実は借金があったとわかったときにそれを相続してしまうのは嫌だから、マイナスの財産も含めてお袋が引き受ける形にしようよ。でも、これを普通に遺産分割協議で進めてしまうと、債務を相続してしまう可能性もあるから、俺が家庭裁判所で相続放棄してこようと思う。それでお袋が遺産を全部相続するような形にしてくるよ」
このように聞くと、父親が亡くなったことを知った日からきちんと3ヵ月以内に、息子が家庭裁判所で相続放棄をして、息子たちが相続人から外れて母親が全財産を相続する…というのをイメージするかもしれません。
しかし、実はここが一番ヤバい落とし穴なのです。
不仲の父の弟が相続人に!
相続放棄の効果は強力です。さきほども説明しましたが相続放棄をするとその人は最初から相続人ではなかったことになるのです。
事例の家族構成は父、母、息子です。母は亡き父の配偶者ですから、常に相続人となります。息子は第一順位の相続人ですが、息子が相続放棄をすると第一順位の相続人が初めからいなかったことになります。そうすると、息子の相続権が次順位の相続人に行ってしまうのです。
亡き父は高齢のため、第二順位の相続人である父の親も先に亡くなっています。
この事例の場合、息子が相続放棄をすると、息子の相続権はなんと父と不仲の父の弟へ行ってしまうのです。
最終的に、亡き父の相続人は、「母」と「亡き父の弟(亡き父とは不仲)」の2人になります。
息子はもともと「遺産はすべて母に」と考えていましたが、父の弟がどう考えるかはわかりません。相続人として亡き父の遺産を要求してくる可能性も考えられます。
母が父名義の自宅に住み続けるため自宅の名義を100%母親の分にするには、亡き父の弟と遺産分割協議をして、実印を押してもらわないといけません。
それまで兄夫婦との仲が円満で、母が自宅を相続することについて同意してくれる人であればよいのですが、亡き父と不仲だった弟となると、遺産分割協議書に実印を押してもらえるとは限りません。
遺産分割協議の話し合いができない場合は裁判所上で遺産分割調停などを行い、手続きも長期化します。息子が良かれと思って行った相続放棄によって「母親がすべて相続」が叶わなくなるどころか、自宅を失う恐れもあるのです。
相続放棄は「なかったこと」にはできない
単純に母親に全部相続させたいがために子供が相続放棄をしてしまうと、実は大変な事態になります。実は、この事例は、司法書士ではありませんが他士業が実際やってしまった「やらかし」をもとにしています。
相続放棄の効果は強力です。被相続人が亡くなったことを知った日から3ヵ月以内であれば難しくないのですが、安易に行うととんでもないことになります。
後になって「やっぱりなかったことに」はできませんので、一度きちんと専門家に相談することをオススメします。