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高齢の親を詐欺から守る「家族信託」の威力|500万円被害の事例から学ぶ、家と預金を守る仕組み

  • 投稿:2026年04月07日
高齢の親を詐欺から守る「家族信託」の威力|500万円被害の事例から学ぶ、家と預金を守る仕組み

「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」「点検強盗」……。高齢者を狙った特殊詐欺の手口は年々巧妙化しており、もはや「気をつけてね」という言葉だけで防ぎ切ることは困難です。犯人グループは心理学を駆使し、親の「子供を想う気持ち」や「将来への不安」を巧みに突いてきます。

一度被害に遭えば、長年積み上げてきた老後資金が失われるだけでなく、親御さんは「自分が騙された」という強いショックを受け、認知症が一気に進行してしまうケースも少なくありません。

本記事では、実際に500万円の詐欺被害に遭ってしまった85歳の母親の事例をベースに、「騙されてもお金を渡せない仕組み」である家族信託について、司法書士の知見を凝縮して解説します。

※動画でも解説していますので是非ご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします!!

1. 事例検討:85歳、一人暮らし。忍び寄る特殊詐欺の影

まずは、今回検討する具体的な事例を見てみましょう。

【家族構成と状況】

  • 母(85歳): 地方で一人暮らし。日常生活は自立しているが、最近物忘れが目立つ。
  • 娘たち(三姉妹): それぞれ別居。母の健康状態を心配している。
  • 財産: 亡き夫から相続した自宅不動産、預貯金。

【事件の発生】

ある日、母のもとに娘を装う電話がかかり、「急ぎで現金が必要だ」と泣きつかれました。母は疑うことなく銀行へ走り、500万円を騙し取られてしまいました。

【娘たちの不安】

「今回は現金500万円だったけれど、次はもっと大きな金額や、お父さんが残してくれた大事な『自宅』まで騙し取られてしまうのではないか?」という強い危機感を抱いています。

このような状況で、家族はどう動くべきでしょうか?

2. 一般的な対策の「限界」を知る

「親の判断能力が怪しくなってきたなら、後見人を付ければいいのでは?」と考える方は多いですが、実は現行の制度にはそれぞれ「詐欺対策」としての弱点があります。

① 成年後見制度(法定後見)の限界

法定後見は、すでに判断能力が「常に欠けている状態」の方を対象としています。

  • 弱点: 今回の事例のように「普段の会話はしっかりしているが、騙されやすい(判断能力が不十分)」というグレーゾーンの状態では、裁判所に申し立てても後見人等が付かない可能性が高いのです。

② 補助・保佐制度の限界

判断能力が少し衰えた方向けの「補助」「保佐」という類型もあります。これには「取消権(後で契約を白紙に戻す権利)」がありますが、相手が詐欺師の場合、一度渡したお金を持って逃げられてしまえば、後から契約を取り消したところでお金は物理的に戻ってきません。

③ 任意後見制度の限界

「将来に備えて任意後見契約を結ぶ」という方法もありますが、これも解決にはなりません。

  • 弱点: 任意後見は「実際に認知症が進行して、裁判所が監督人を選任するまで」はスタートしません。今すぐ詐欺を防ぎたいという即効性が皆無なのです。

3. 解決策:家族信託で財産に「ロック」をかける

そこで、判断能力がしっかりしている(あるいは少し衰え始めた)今こそ活用すべきなのが「家族信託」です。

家族信託とは、一言で言えば「財産の名義を信頼できる家族に移し、管理を託す仕組み」です。

今回の設計例

  • 委託者(財産を預ける人): お母さん
  • 受託者(財産を預かる人): 長女(二女や三女でも可)
  • 受益者(財産の利益を得る人): お母さん
  • 信託財産: 自宅不動産、および預貯金の大部分

4. なぜ家族信託が「詐欺被害」を物理的に防げるのか?

家族信託を組成し、不動産と預金を信託すると、以下のような強力な防御壁が構築されます。

① 不動産(自宅)を詐欺師から守る

信託契約を結ぶと、不動産の名義は「長女(受託者)」に変更されます。登記簿謄本上も「受託者:長女」と記載されます。

  • 防衛効果: もし詐欺師がお母さんを言葉巧みに騙して「この書類にハンコを押して、家を売って現金を作れ」と迫っても、お母さんにはもう不動産を処分する権限がないため、手続きが進みません。お母さん単独では、家を売ることも担保に入れることも物理的に不可能になるのです。

② 預貯金を詐欺師から守る

お母さんの預金を「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」という、長女が管理する専用の口座に移します。

  • 防衛効果: お母さんが通帳と印鑑を持って銀行窓口に行き、「500万円下ろしたい」と言っても、銀行は応じません。なぜなら、その預金名義や管理権限は「受託者である長女」にあるからです。
  • 生活はどうなる?: 長女がお母さんの生活費や医療費を、定期的に(あるいは必要に応じて)お母さんの生活口座へ振り込みます。いわば「家族によるお小遣い制」への移行です。これにより、手元にある現金を最小限に抑え、多額の被害を防ぐことができます。

5. 【比較表】成年後見・任意後見・家族信託の違い

詐欺対策という観点から、各制度の違いをまとめました。

項目法定後見(成年後見)任意後見家族信託
開始時期判断能力喪失後判断能力喪失後契約後すぐ(今すぐ)
詐欺への即効性なし(事後対策)なし(事後対策)あり(事前対策)
不動産売却裁判所の許可が必要な場合あり任意後見人が行う受託者(子供)の判断で可
費用の発生毎月の報酬(専門家の場合)監督人への報酬が必要初期費用のみ(原則)
柔軟性低い(財産の維持のみ)中程度高い(資産運用も可)

6. 家族信託を検討する際の3つの重要ポイント

家族信託は強力な武器ですが、正しく使うためには準備が必要です。

① お母さんの「納得」が必要

「財産を取り上げられた」と感じさせてはいけません。「お母さんの大事なお金を守るための、管理場所の変更だよ」と、お母さんのプライドを傷つけない丁寧な説明が不可欠です。本人が契約内容を理解できる程度の判断能力があるうちにしか、この契約は結べません。

② 家族全員での合意

長女が独断で進めると、後で二女や三女から「長女がお母さんのお金を独り占めしようとしている」と疑われるリスクがあります。三姉妹全員で話し合い、透明性の高い管理体制(定期的な報告など)を作ることが大切です。

③ 専門家(司法書士)による設計

家族信託は、契約書の書き方一つで税金(贈与税)がかかってしまったり、銀行での口座開設ができなかったりする非常に高度な手続きです。必ず実務経験の豊富な司法書士などの専門家を交えて設計してください。

7. まとめ:放置が最大のリスクです

「いつか対策をしよう」と思っている間にも、詐欺師は虎視眈々とお母さんの財産を狙っています。一度失われた財産を取り戻すことは、現代の法制度では極めて困難です。

500万円の被害は痛い勉強代かもしれませんが、これ以上の被害、特に「住む家」を失う事態を防げるのは、ご家族の迅速な決断だけです。

親御さんが元気なうちに、「家族信託」という、新しいの親孝行の形を検討してみてはいかがでしょうか。

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