[遺言・後見・家族信託]
【成年後見制度は本当に使わない方がいい?あえて使うべき4つのケースを司法書士が解説
- 投稿:2026年06月19日
「成年後見制度は使い勝手が悪い」
「一度始めたらやめられない」
「費用がかかり続ける」
「家族が自由にお金を動かせなくなる」
成年後見制度について調べると、このようなマイナスの情報を目にすることが多いと思います。
たしかに、成年後見制度には注意点があります。特に、家庭裁判所に申し立てて利用する「法定後見制度」は、本人や家族の希望だけで自由に財産を動かせる制度ではありません。
そのため、家族信託や任意後見など、事前に準備できる方法と比べると、「できることが限られる」「手続きが重い」と感じる場面もあります。
しかし一方で、成年後見制度には、他の制度では代わりがきかない大きな役割があります。
特に、すでに認知症が進んでしまっている場合や、悪質な契約から本人を守る必要がある場合、親族間で財産管理をめぐるトラブルが起きそうな場合には、成年後見制度が非常に有効な選択肢になることがあります。
今回は、あえて成年後見制度を使うべき4つの理由について、司法書士の立場からわかりやすく解説します。
※動画でも解説していますので是非ご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします!!
目次
そもそも成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分になった方を法律的に支援する制度です。
本人が自分で契約をしたり、財産を管理したりすることが難しくなった場合に、家庭裁判所が選んだ後見人などが、本人に代わって財産管理や契約手続きを行います。
成年後見制度には、大きく分けて次の2つがあります。
1つ目は、本人の判断能力があるうちに、将来に備えて契約しておく「任意後見制度」。
2つ目は、すでに判断能力が低下した後に、家庭裁判所へ申し立てて利用する「法定後見制度」です。
今回お伝えするのは、主に後者の「法定後見制度」です。
家族信託や任意後見は、本人の判断能力があるうちに準備しておく制度です。つまり、認知症が進んでからでは、基本的に利用することができません。
その点、法定後見制度は、すでに本人の判断能力が低下している場合でも利用できる制度です。
ここが、法定後見制度の非常に大きな特徴です。
理由1 すでに認知症が進んでいても使える数少ない手段だから
成年後見制度をあえて使うべき1つ目の理由は、すでに認知症が進んでいたとしても利用できる制度だからです。
家族信託や任意後見は、将来に備えて、本人が元気なうちに準備しておく制度です。
たとえば、家族信託であれば、本人が信頼できる家族に財産管理を任せる契約を結びます。任意後見であれば、将来判断能力が低下したときに備えて、誰に支援してもらうかをあらかじめ契約で決めておきます。
いずれも、本人が契約内容を理解し、自分の意思で契約できることが前提です。
そのため、すでに認知症が進み、契約内容を理解することが難しい状態になっていると、家族信託や任意後見契約を新たに結ぶことはできません。
このような場合に利用できる代表的な制度が、法定後見制度です。
たとえば、親の銀行口座が凍結されてしまった場合を考えてみましょう。
認知症が進むと、銀行側が本人の判断能力に不安があると判断し、口座取引を制限することがあります。そうなると、家族であっても、本人の預金を自由に引き出すことはできません。
施設費用や医療費を支払いたいのに、親の口座からお金を出せない。
実家を売却して介護費用に充てたいのに、本人が売買契約を結べない。
このような事態になると、家族だけでは解決が難しくなります。
そこで、家庭裁判所に成年後見の申し立てを行い、後見人が選任されることで、後見人が本人に代わって必要な手続きを進められるようになります。
もちろん、実家の売却など重要な財産処分については、家庭裁判所の許可が必要になる場合があります。しかし、適切な手続きを踏めば、凍結されたまま何もできない状態から抜け出すことができます。
「もっと早く家族信託をしておけばよかった」
「任意後見を契約しておけばよかった」
このように後悔されるご家族も少なくありません。
しかし、すでに判断能力が低下している場合でも、法定後見制度であれば利用できます。
これは、法定後見制度の大きな強みです。
理由2 詐欺や不要な契約から本人を守れるから
法定後見制度を使うべき2つ目の理由は、本人がした契約を取り消せる場合があることです。
これは、法定後見制度の非常に強力なメリットです。
認知症が進んだ高齢者を狙った悪質商法は、今も後を絶ちません。
たとえば、次のようなケースです。
訪問販売で高額な商品を買わされてしまった。
必要のないリフォーム工事を契約してしまった。
内容をよく理解しないまま、金融商品を契約してしまった。
しつこく勧誘されて、高額なサービスに申し込んでしまった。
このような場合、本人が契約書に署名押印してしまうと、家族としては「取り消せないのではないか」と不安になると思います。
しかし、成年後見人がついている場合、成年後見人には、本人がした一定の法律行為を取り消す権限があります。
この「取消権」は、家族信託や任意後見にはありません。
家族信託では、信託した財産については受託者が管理できますが、本人が信託していない財産について契約してしまった場合、それを当然に取り消せるわけではありません。
また、任意後見制度でも、このような強力な取消権はありません。
つまり、本人が悪質な契約をしてしまった後に、それを法律上取り消して財産を守るという点では、法定後見制度が非常に強い制度だといえます。
もちろん、すべての契約が必ず取り消せるわけではありません。日常生活に関する行為など、取り消しの対象にならないものもあります。
それでも、判断能力が低下した本人が、悪質な業者や不要な契約から守られる仕組みがあることは、家族にとって大きな安心材料です。
特に、親が一人暮らしをしている場合や、訪問販売・電話勧誘に何度も応じてしまっている場合には、成年後見制度の利用を検討する価値があります。
理由3 親族間のお金のトラブルを防ぎやすいから
成年後見制度を使うべき3つ目の理由は、親族間のお金のトラブルを予防しやすいことです。
親の財産管理をめぐって、兄弟姉妹の間でトラブルになるケースは少なくありません。
たとえば、親の近くに住んでいる長男が、親の通帳やキャッシュカードを預かっているとします。
長男としては、親の生活費や介護費用を支払うためにお金を管理しているだけかもしれません。
しかし、離れて暮らす兄弟姉妹から見ると、次のような疑いを持たれることがあります。
「親のお金を勝手に使っているのではないか」
「自分の生活費に流用しているのではないか」
「介護を理由に、多めにお金を取っているのではないか」
「通帳を見せてくれないのは何か隠しているからではないか」
実際には不正がなかったとしても、情報が共有されていないだけで不信感は生まれます。
そして、その不信感が積み重なると、親の生前だけでなく、相続の場面でも大きな争いに発展することがあります。
「生前に使い込んだお金を戻せ」
「親の預金が減っている理由を説明しろ」
「介護していたからといって、勝手にお金を使っていいわけではない」
このような争いは、相続実務でもよく見られます。
成年後見制度を利用すると、後見人が本人の財産を管理し、家庭裁判所の監督を受けることになります。
特に、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選ばれた場合には、親族ではない第三者が財産管理を行うため、親族間の疑いを減らしやすくなります。
もちろん、専門職後見人であっても、過去には不正事例が報道されたことがあります。そのため、「他人に親の財産を任せるのは不安」と感じる方もいると思います。
ただ、親族が財産管理をしている場合でも、不正や使い込みが起きるリスクはあります。
むしろ、親族の場合は、「親のお金」と「自分のお金」の区別があいまいになってしまうことがあります。
悪意がなくても、次のようなことが起こり得ます。
親のために使ったつもりだった。
立て替えた分を戻しただけのつもりだった。
介護をしているのだから、このくらい使ってもいいと思っていた。
家族なのだから細かく記録しなくてもいいと思っていた。
しかし、法律上は、親のお金はあくまで親本人のものです。
家族であっても、自由に使ってよいわけではありません。
成年後見制度を利用することで、本人の財産管理に一定のルールと透明性が生まれます。
親族同士の関係があまり良くない場合や、将来的に相続トラブルが心配な場合には、成年後見制度が家族間の争いを防ぐ役割を果たすことがあります。
理由4 頼れる家族がいない人のセーフティネットになるから
成年後見制度を使うべき4つ目の理由は、頼れる家族がいない人を支える制度になることです。
家族信託や任意後見は、基本的には「信頼して任せられる人」がいることを前提としています。
家族信託であれば、財産を管理する受託者が必要です。
任意後見であれば、将来後見人になってもらう任意後見受任者が必要です。
つまり、どちらの制度も、本人の周りに信頼できる人がいることが前提になります。
しかし、現実にはそうではない方も多くいます。
子どもがいない。
親族と疎遠になっている。
兄弟姉妹も高齢で頼れない。
家族はいるが、財産管理を任せられる関係ではない。
周囲に迷惑をかけたくない。
頼れる人が近くにいない。
このような場合、家族信託や任意後見を使いたくても、引き受けてくれる人がいないという問題が出てきます。
また、家族信託については、専門家に受託者を依頼すればよいと思われるかもしれません。
しかし、弁護士や司法書士などの専門家が、報酬をもらって継続的に信託の受託者になることは、信託業法との関係で簡単ではありません。
つまり、「家族に頼れないから、専門家に家族信託の受託者になってもらう」という形は、一般的には難しいのです。
その点、法定後見制度では、家庭裁判所が後見人を選任します。
親族に適任者がいない場合には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が後見人に選ばれることがあります。
これにより、本人の財産管理や生活に必要な契約手続きが、法律に基づいて行われるようになります。
身寄りがない方や、家族に頼れない方にとって、成年後見制度は社会的なセーフティネットとして機能します。
「誰にも頼れないから何もできない」という状態を防ぐための制度でもあるのです。
成年後見制度にはデメリットもある
ここまで、成年後見制度をあえて使うべき理由を説明してきました。
ただし、成年後見制度が万能というわけではありません。
利用する前に知っておくべき注意点もあります。
まず、成年後見制度は、本人の財産を本人のために守る制度です。
そのため、家族の都合で自由に財産を動かすことはできません。
たとえば、相続税対策のために生前贈与をしたい、家族のためにまとまったお金を使いたい、資産運用を積極的にしたいというようなことは、原則として難しくなります。
また、専門職後見人が選ばれた場合には、報酬が発生します。
後見制度は、基本的には本人が亡くなるまで続くことが多いため、長期間にわたって費用がかかる可能性があります。
さらに、家族が後見人になりたいと思って申し立てをしても、必ず家族が選ばれるとは限りません。
家庭裁判所が本人の状況や財産内容、親族関係などを見て、専門職後見人を選任することもあります。
そのため、成年後見制度は「家族が親のお金を管理しやすくするための制度」ではありません。
あくまで、判断能力が低下した本人を守るための制度です。
この点を誤解して利用すると、「思っていた制度と違った」と感じてしまう可能性があります。
家族信託・任意後見・法定後見は使い分けが大切
認知症対策を考えるときには、家族信託、任意後見、法定後見を比較して考えることが大切です。
家族信託は、本人が元気なうちに、信頼できる家族などに財産管理を任せる仕組みです。
実家の管理や売却、賃貸不動産の管理、預金の管理などを柔軟に行いやすいというメリットがあります。
任意後見は、本人が元気なうちに、将来後見人になってもらう人を契約で決めておく制度です。
本人の希望を反映しやすく、将来の生活支援や財産管理に備えることができます。
一方、法定後見は、すでに判断能力が低下している場合でも利用できる制度です。
また、取消権があるため、本人が悪質な契約をしてしまった場合に財産を守りやすいという特徴があります。
つまり、どの制度が一番良いというよりも、本人の状態や家族関係、財産の内容によって向き不向きがあります。
本人がまだ元気で、信頼できる家族がいる場合には、家族信託や任意後見を検討する価値があります。
一方で、すでに認知症が進んでいる場合や、親族間の対立が強い場合、頼れる家族がいない場合には、法定後見制度が現実的な選択肢になることがあります。
まとめ 成年後見制度は「使ってはいけない制度」ではない
成年後見制度には、たしかにデメリットがあります。
自由度が下がる。
費用がかかる。
家庭裁判所の監督を受ける。
家族の思いどおりに財産を動かせない。
このような点だけを見ると、使いにくい制度だと感じるかもしれません。
しかし、成年後見制度には、他の制度では代わりがきかない大切な役割があります。
今回お伝えした、成年後見制度をあえて使うべき理由は次の4つです。
1つ目は、すでに認知症が進んでいても使えること。
2つ目は、詐欺や不要な契約から本人を守れること。
3つ目は、親族間のお金のトラブルを予防しやすいこと。
4つ目は、頼れる家族がいない人のセーフティネットになること。
成年後見制度は、決して「悪い制度」ではありません。
ただし、誰にとっても最適な制度というわけでもありません。
大切なのは、本人の判断能力、財産の内容、家族関係、将来の希望を踏まえて、どの制度が合っているのかを早めに検討することです。
認知症対策は、判断能力がしっかりしているうちに準備できるかどうかで、選べる選択肢が大きく変わります。
「親の物忘れが増えてきた」
「実家や預金の管理が心配」
「兄弟間で将来揉めそう」
「家族信託や成年後見の違いがよくわからない」
このようなお悩みがある方は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
成年後見制度を使うべきなのか。
それとも、家族信託や任意後見など別の方法を検討すべきなのか。
状況に応じて適切な方法を選ぶことが、本人の財産と家族の安心を守る第一歩になります。