[不動産(売買)]
不動産M&Aとは?通常の売却との違いと、手残り額に数千万円の差が出る理由
- 投稿:2026年07月31日
法人で不動産を所有しているオーナー様や、不動産の管理・仲介を行う不動産会社様から、近年よくご相談をいただくのが「不動産M&A」という手法です。結論から言うと、不動産M&Aとは不動産そのものを売るのではなく、その不動産を所有する会社(株式)ごと譲渡する手法のことです。通常の不動産売却(現物売却)と比べて、売却後に手元に残る金額(手残り額)に数千万円単位の差が生まれるケースがあり、法人で不動産を保有している方にとっては知っておいて損のない選択肢です。本コラムでは、不動産M&Aの基本的な仕組みから、実際の数字を使ったシミュレーション、メリット・注意点までをわかりやすく解説します。
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不動産M&Aとは何か
不動産M&Aとは、不動産を所有している法人(株式会社など)を、その会社ごと第三者に譲渡する手法です。一般的な不動産売買が「物件そのもの」の名義を売主から買主へ移すのに対し、不動産M&Aでは「会社の株式」を譲渡することで、間接的に不動産の実質的な所有者を変えるという点が大きな違いです。
対象となるのは、主に以下のような法人です。
- 資産管理会社(不動産投資や節税目的で設立された法人)
- 特定の不動産だけを保有するために設立されたSPC(特定目的会社)
一方で、従業員を多数抱える一般の事業会社は、後述する「簿外債務」などのリスクが大きくなるため、不動産M&Aにはあまり向いていません。あくまで「不動産を持たせるためだけの箱」となっている法人が対象になりやすい手法だと考えてください。
通常の不動産売買(現物売却)との違い
現物売却の場合、不動産の名義が「法人 → 買主個人・買主法人」へと移転します。手続きとしては一般的な不動産取引と同じで、多くの方にとってイメージしやすい方法です。
これに対して不動産M&Aは、不動産の名義自体は変わりません。変わるのは「会社の株主」であり、法律上は株式譲渡という取引になります。実態としては不動産の実質的な支配権が移るという点で通常の不動産取引と大きく変わりませんが、法律上の手続きと、それに伴う税金の計算方法がまったく異なってきます。この「税金の計算方法の違い」こそが、手残り額に大きな差を生む最大のポイントです。
モデルケースで比較:手残り額はどれくらい変わる?
具体的な数字で見てみましょう。以下は説明のための簡易モデルケースです(実際の税額は個々の状況により変動します)。
前提条件
- 帳簿上の価格(簿価):1億円
- 現在の時価:2億円
- 負債なし、純資産1億円の資産管理会社
- 株主はオーナー個人1名
パターンA:現物売却の場合
現物売却では、会社に残ったお金を最終的に個人へ移す際、税金が2段階でかかる点が最大のポイントです。
- 法人税(1段階目):2億円で売却すると、簿価1億円との差額である1億円が売却益となり、これに法人税(実効税率およそ35%として計算)が課税されます。税額は約3,500万円で、会社に残る残余財産は約1億6,500万円になります。
- 所得税(2段階目):この残余財産を会社の解散・清算を通じて個人へ配当として移すと、配当所得として総合課税の対象になります。金額が大きいため最高税率(住民税込みで約55%)が適用されるケースが多く、この段階でさらに大きく目減りします。
この結果、最終的な手残り額は約8,961万円にとどまります。2億円で売却しても、税金で1億円以上が失われる計算です。
パターンB:不動産M&A(株式譲渡)の場合
不動産M&Aでは、不動産そのものではなく「株式」を2億円で譲渡します。株式譲渡による所得は分離課税の対象となり、税率は約20%で済みます。
- 税額:2億円 × 約20% = 約4,000万円
- 手残り額:約1億6,000万円
会社の解散・清算といった手間もかからず、税金も現物売却の半分以下で済むため、手残り額は大きく変わります。
比較まとめ
| 現物売却 | 不動産M&A(株式譲渡) | |
|---|---|---|
| 課税方式 | 法人税 + 所得税(総合課税) | 譲渡所得税(分離課税) |
| おおよその税率 | 2段階で実質60〜65%程度 | 約20% |
| 手残り額の目安 | 約8,961万円 | 約1億6,000万円 |
このモデルケースでは、手残り額の差はおよそ7,000万円にのぼります。売却する不動産の含み益が大きいほど、この差はさらに広がる傾向にあります。
不動産M&Aのメリット
- 税負担を大きく抑え、手残り額を増やせる可能性がある
- 会社の解散・清算といった手続きが不要
- 不動産そのものの名義変更を伴わないため、契約関係(賃貸借契約など)をそのまま維持しやすい
不動産M&Aの注意点・リスク
良いことばかりに見える不動産M&Aですが、当然ながら注意すべき点もあります。最大のポイントは、会社を丸ごと引き継ぐという取引の性質上、買主側が思わぬリスクを背負う可能性があることです。
- 簿外債務:帳簿には表れていない未払い残業代や保証債務などが後から発覚するリスク
- 仮払金・未収金などの税務上の問題
- 従業員が在籍する会社では労務リスクが増大するため、そもそも不動産M&Aに向かないケースが多い
こうしたリスクを避けるためには、買主側が財務・税務・法務の観点から入念な調査(デューデリジェンス)を行うことが不可欠です。そのため、不動産M&Aを進める際には、司法書士・税理士・弁護士など複数の専門家が連携して取引を進める必要があります。
こんな方は不動産M&Aを検討する価値があります
- 法人名義で不動産を所有しており、購入時よりも時価が大きく上昇している(含み益が大きい)
- 資産管理会社やSPCなど、不動産保有以外の事業を行っていない法人が売却主体である
- 売却後の手残り額を最大化したい
逆に、負債や複雑な事業実態を抱える会社、従業員が多数在籍する会社の場合は、現物売却のほうが適しているケースもあります。重要なのは、最初から「現物売却しか選択肢がない」と決めつけず、税金・会社の負債状況・将来性なども含めて複数の選択肢を比較検討できる状態にしておくことです。
まとめ
不動産M&Aは、法人が所有する不動産を「物件そのもの」ではなく「会社の株式」として譲渡することで、税負担を抑え、手残り額を大きく増やせる可能性がある手法です。一方で、簿外債務などのリスクを避けるためには専門家による綿密な調査が欠かせません。法人で不動産を所有していて、含み益が大きくなっている方は、売却方法を決める前に一度、不動産M&Aという選択肢も含めて専門家に相談されることをおすすめします。
よくある質問
Q. 不動産M&Aと通常の不動産売却の一番の違いは何ですか?
A. 通常の売却は不動産そのものの名義を移すのに対し、不動産M&Aは不動産を所有する会社の株式を譲渡する点が異なります。この違いにより、適用される税金の種類や税率が変わります。
Q. どんな会社でも不動産M&Aはできますか?
A. いいえ。従業員が在籍する一般の事業会社は簿外債務などのリスクが大きく、不動産M&Aには不向きです。主に資産管理会社やSPCなど、不動産保有を目的とした法人が対象となります。
Q. 不動産M&Aを検討する場合、誰に相談すればよいですか?
A. 税務・法務・不動産の各専門知識が必要になるため、司法書士・税理士など複数の専門家が連携して進めるのが一般的です。個々の状況によって最適な手法や税額は異なりますので、まずは専門家にご相談ください。
※本コラムで紹介した税額・手残り額はあくまで説明のための簡易モデルケースによる試算です。実際の税額は個々の資産状況や適用される控除等により異なりますので、具体的なご検討の際は必ず専門家にご相談ください。