[遺言・後見・家族信託]
親に「遺言書を書いて」はNG|財産の話を自然に切り出す3つの質問を司法書士が解説
- 投稿:2026年10月15日
親に遺言書を書いてほしいと思っても、ストレートに頼むと「早く死ねということか」と親を怒らせてしまうことがあります。本記事では、司法書士である筆者が、親が自然に財産の話をしてくれる3つの質問と、家族信託やエンディングノートをきっかけに遺言書の準備へつなげる進め方を、実務の経験をもとに解説します。
「そろそろ親に遺言書を書いておいてほしい」
「でも、どう切り出せばいいのか分からない」
このように悩んでいる40代・50代の方は少なくありません。
私は司法書士として、遺言書や家族信託などの生前対策のご相談を日々お受けしていますが、「子どもの側から親に言い出しにくい」というお声は本当によく伺います。私自身も父が80歳を迎え、決して他人事ではありません。
この記事では、親に警戒されずに財産の話を始められる「3つの質問」と、そこから遺言書や家族信託の準備へ自然につなげる方法を、実務の経験をもとに解説します。
結論|「遺言書を書いて」とストレートに言うのは避けましょう
親に遺言書を書いてもらいたいときは、いきなり「遺言書を書いて」と頼むのではなく、まず親子でお金の話ができる関係を作ることが大切です。
そのために有効なのが、次の3つの質問です。
- 自分の相談として「人生の先輩」に聞く
- 亡くなった後ではなく「入院したら」の話をする
- 他の家庭の失敗談をきっかけにする
いずれも、親の財産を直接聞き出すのではなく、親が自分から話したくなる流れを作る方法です。
なぜ「遺言書を書いて」と言うと揉めてしまうのか?
親世代、特に団塊の世代前後の方の中には、子どもから「遺言書を書いてほしい」と言われると、次のように受け取ってしまう方がいます。
- 「早く死ねということか」
- 「財産を当てにしているのか」
子どもの側は家族のためを思って言っているのに、親は気分を害してしまう。その結果、かえって話がこじれ、相続の話題そのものがタブーになってしまうこともあります。
もちろん、親御さんが自分から進んで準備してくれるのが理想です。しかし、実際にはなかなかそうはいきません。
遺言書があれば、亡くなった後の手続きがスムーズになり、相続人同士の争いを防ぐ効果も期待できます。だからこそ、「切り出し方」に工夫が必要なのです。
質問1|自分の相談として「人生の先輩」に聞く
1つ目は、主語を親ではなく自分にする方法です。
例えば、次のように聞いてみます。
「最近、自分も老後や保険のことを考えるようになったんだけど、お父さんはどうしてきたの?」
いきなり「お父さん、預金はいくらあるの?」「どこの銀行に口座があるの?」と聞くと、親は警戒します。資産の情報を直接聞かれているのと同じだからです。
一方で、「自分も40代・50代になって老後が気になってきたから、人生の先輩として教えてほしい」というスタンスで聞くと、親も話しやすくなります。
「昔は郵便局の定額貯金が良くてね」
「生命保険は若い頃に入ったのがそのままだな」
といった昔話の延長で、どこの銀行に口座があるのか、どこの保険に入っているのか、証券会社で株を持っているのか、といった情報が自然に出てくることがあります。
最初から財産のすべてを聞き出す必要はありません。「どこに何がありそうか」の当たりをつけるだけでも、いざというときの手続きの負担は大きく変わります。
質問2|亡くなった後ではなく「入院したら」の話をする
2つ目は、相続の話ではなく、入院したときの話をする方法です。
「もしお父さんが急に入院することになったら、お金はどこから出せばいい?」
「暗証番号は今教えなくていいから、通帳や保険証券がどこにあるかだけ教えておいて」
ポイントは、亡くなった後の話ではないということです。
「相続」や「遺言」という言葉を聞くと、親は「自分が死ぬ前提の話か」と感じてしまいます。そうではなく、
- もし入院したらどうするか
- もし骨折して動けなくなったらどうするか
- もし認知症になって銀行に行けなくなったらどうするか
といった、今、生きている間に何かあったときの話として伝えるのです。「お父さん、お母さんのことが心配だから」という気持ちが伝われば、親も耳を傾けやすくなります。
なお、暗証番号は実際に入院した場合などに必要になることもあるため、関係性によっては聞いておくと安心です。ただ、警戒されそうな場合は無理に聞かなくても構いません。
質問3|他の家庭の失敗談をきっかけにする
3つ目は、他人の失敗談を使う方法です。
「知り合いが、親が倒れたときに通帳や保険がどこにあるか全然分からなくて大変だったらしいんだけど、うちは大丈夫?」
人は「あなたも準備した方がいい」と言われると反発しがちです。特に年齢を重ねると、その傾向は強くなります。ところが「こんなことで困った人がいる」と聞くと、「うちはどうだったかな」と自分から考え始めるものです。
例えば、次のような話題が使えます。
- 会社の同僚が、親の通帳が見つからず、しばらく介護費用を立て替えていたらしい
- 知り合いの親が認知症になり、実家を売ろうとしても売れなくなって困ったらしい
- 親が入っていた保険が分からず、後から大量の書類を探すことになったらしい
身近で本当にあった話が一番自然ですが、ニュースで見聞きした事例でも構いません。
大切なのは、「あなたの財産を知りたい」ではなく、「同じことで困ってほしくない」というスタンスで伝えることです。
親から「全部、寝室の引き出しにまとめてある」「銀行の書類はこのファイルに入っている」といった答えが返ってくれば、まずはそれで十分です。
話を聞けたら、その日のうちに進めなくて大丈夫です
3つの質問で親が少し話をしてくれたとしても、「じゃあ遺言書を書こう」「公証役場に行こう」「家族信託をやろう」と一気に進めるのはおすすめしません。急ぐと、かえって警戒されたり、嫌がられたりすることが多いからです。
まずは「教えてくれてありがとう」で終わって構いません。
最初の目的は、親子でお金の話ができる状態を作ることです。
ご家族ごとに適したタイミングや進め方は異なります。「うちの場合はどう進めればいいのか」と迷ったら、早めに専門家へ相談するのも一つの方法です。
次のステップ|家族信託をきっかけに遺言の話へつなげる
親子でお金の話ができるようになったら、次は具体的な対策の話です。
ここで私がおすすめしているのは、遺言書の話から入るのではなく、家族信託の話から入るという流れです。遺言の話はどうしても「死」と結びつきやすいためです。
家族信託とは?
家族信託とは、親が元気なうちに、自分の財産の管理を信頼できる家族(子どもなど)に託しておく仕組みです。主に、認知症に備えた生前の財産管理対策として使われます。
親が認知症になると、預金の引き出しや自宅の売却ができなくなる、いわゆる「資産凍結」が起こることがあります。
「お父さんが認知症になって、財産が動かせなくなったら困るよね」という話であれば、まだ元気な今の生活に関わる話なので、親も受け入れやすくなります。
家族信託から「亡くなった後」の話へ
家族信託では、親が亡くなった後にその財産を誰に引き継ぐかも決めておけます。そのため、認知症対策の話から、自然と亡くなった後の財産の承継の話へ進めることができます。
ただし、家族信託には信託した財産についてしか決められないという特徴があります。信託していない財産も含めて、財産全体をどう分けるかを決めるには遺言書が必要です。
そのため、
- 家族信託だけを使う
- 遺言書だけを作る
- 家族信託と遺言書を併用する
といった選択肢の中から、ご家族の状況に合った方法を選ぶことになります。
3つの質問でお金の話ができる関係を作り、認知症対策として家族信託の話を切り出し、そこから亡くなった後の財産の話につなげる。この流れで進めると、抵抗感なく受け入れてくださる親御さんが多いというのが、実務での私の実感です。
エンディングノートを活用するのもおすすめです
もう一つおすすめなのが、エンディングノートの活用です。
エンディングノートとは、自分の財産の内容や、亡くなった後に家族にしてほしいことなどを自由に書き留めておくノートです。遺言書や家族信託のような法的な効力はありませんが、そのぶん形式にとらわれず、気軽に書くことができます。
財産の整理や本人の考えをまとめるのに役立つため、エンディングノートをきっかけに家族信託や遺言書の話へ進めていくのも有効です。
よくある質問
親が遺言書の話を嫌がる場合はどうすればいいですか?
無理に説得しようとせず、まずは「入院したら」「認知症になったら」といった生前の困りごとの話から始めてみてください。遺言書は亡くなった後の話なので、本人にとっては実感がわきにくいものです。今の生活を守る話から入ると、受け入れてもらいやすくなります。
親の財産の金額まで聞いておくべきですか?
最初から金額まで聞く必要はありません。まずは「どこの銀行に口座があるか」「どの保険に入っているか」など、どこに何があるかが分かるだけでも、万が一のときの手続きの負担は大きく減ります。
家族信託と遺言書はどちらを選べばいいですか?
家族信託は主に認知症対策、遺言書は亡くなった後の財産の分け方を決めるためのものです。それぞれ役割が異なるため、併用するケースもあります。どちらが合うかは、財産の内容やご家族の状況によって変わりますので、専門家に相談したうえで判断することをおすすめします。
親がまだ元気でも、相談してよいのでしょうか?
はい。むしろ親御さんがお元気なうちのほうが、選べる対策の幅が広がります。認知症などで判断能力が低下すると、遺言書の作成や家族信託の契約ができなくなる場合があるためです。
まとめ|まずは親子で「お金の話ができる関係」を作りましょう
親に遺言書を書いてもらいたいときは、いきなり「遺言書を書いて」と頼むのではなく、次の3つの質問から始めてみてください。
- 自分の相談として「人生の先輩」に聞く
- 亡くなった後ではなく「入院したら」の話をする
- 他の家庭の失敗談をきっかけにする
お金の話ができる関係ができたら、家族信託やエンディングノートをきっかけに、認知症対策や亡くなった後の財産の話へと進めていきましょう。
とはいえ、
「親にどう話を切り出せばいいか、具体的に相談したい」
「遺言書と家族信託、うちの親にはどちらが合っているのか知りたい」
「親はまだ元気だけれど、今のうちに何をしておけばいいのか分からない」
という方も多いと思います。
このような、まだ何をするか決まっていない段階でご相談いただいて大丈夫です。むしろ、選択肢が多い今のうちに一度整理しておくことが、ご家族にとって一番の安心につながります。
司法書士法人さえき事務所(東京都町田市)では、遺言書・家族信託・任意後見・相続など、生前対策と相続のご相談を承っています。ご家族の状況を伺ったうえで、「このご家族にとって何が一番合っているのか」を一緒に考えます。
- 平日10時〜19時のご相談は無料です(土日祝は有料)
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親御さんがお元気な今のうちに、どうぞお気軽にご相談ください。