[遺言・後見・家族信託]
新しい後見制度が始まったら家族信託は不要?違いと使い分けを司法書士が解説
- 投稿:2026年10月29日
成年後見制度は今後、「後見・保佐・補助」が補助に一本化され、必要な権限だけを個別に設定し、必要がなくなれば終了できる柔軟な制度に変わる見込みです。では家族信託はもう不要なのでしょうか。家庭裁判所の関与の有無という大きな違い、判断能力の状態に応じた選び方、併用の考え方まで、司法書士・佐伯知哉が解説します。
「成年後見制度が新しくなると聞いたけれど、それなら家族信託はもう必要ないの?」
「親が元気なうちに何か準備したほうがいいのか、制度が変わるまで待ったほうがいいのか迷っている」
このようなご相談を、最近いただくようになりました。
司法書士法人さえき事務所の司法書士、佐伯知哉です。
成年後見制度は、現在大きな見直しが進められていて、今よりも柔軟に使える制度になることが期待されています。
ただし、制度が使いやすくなっても、家族信託が不要になるわけではありません。
この記事では、新しい後見制度の概要、現行制度との違い、そして家族信託とどう使い分ければよいのかを、司法書士の立場から分かりやすく解説します。
結論|新しい後見制度が始まっても、家族信託は引き続き有力な選択肢です
新しい後見制度は「必要なときに、必要な範囲だけ」使える仕組みになる見込みです。
しかし、家庭裁判所が関与する制度であることは変わりません。
一方、家族信託は、家族で決めたルールに基づいて財産を管理できる仕組みです。
- 新しい後見制度は「後見・保佐・補助」の3類型が「補助」に一本化される方向
- 補助人の権限は、本人の状況や必要性に応じて個別に設定する仕組みになる
- 必要がなくなれば終了できるよう、「終身制」が見直される
- ただし、家庭裁判所の監督や判断が必要な点は変わらない
- 家族信託は、元気なうちに家族だけで財産管理のルールを決められる
- どちらか一方ではなく、目的に応じて併用するという考え方もある
成年後見制度とは?現在の仕組みをおさらい
成年後見制度とは、認知症などで判断能力が十分でなくなった方を、法律面からサポートする制度のことです。
現在の制度(法定後見)は、ご本人の判断能力の程度に応じて、次の3つの類型に分かれています。
- 後見:判断能力がほとんどない状態
- 保佐:判断能力が著しく不十分な状態
- 補助:判断能力が不十分だが、ある程度は残っている状態
特に「後見」の場合、いわば「パッケージ」のように、財産に関するほぼすべての権限が後見人に移ります。
ご本人がまだ自分でできることが残っていても、まとめて後見人が行う形になるのです。
新しい後見制度はどう変わる?3つのポイント
新しい後見制度では、現在検討されている内容によると、主に次の3点が大きく変わる見込みです。
なお、施行時期などの具体的な内容は、まだ確定していません(動画収録時点)。
ポイント1|3つの類型が「補助」に一本化される
これまでの「後見・保佐・補助」という3つの区分がなくなり、「補助」に一本化される方向です。
実は、現行の「補助」も、法律で定められた行為の中から「これとこれについて同意権や代理権を与える」と個別に決める仕組みです。
イメージとしては、後見と保佐がなくなり、今の補助の仕組みだけが残る、と考えると分かりやすいと思います。
ポイント2|補助人の権限を個別に設定できる
補助人にどこまでの権限を与えるかは、ご本人の状況や必要性に応じて個別に決めることになります。
たとえば、次のような使い方です。
- 預貯金の管理だけ手伝ってほしい
- 自宅の不動産を売却する手続きだけサポートしてほしい
「全部まとめて任せる」のではなく、「必要なところだけ頼む」ことができるようになります。
ポイント3|「一度始めたら終われない」終身制が見直される
今の成年後見制度は、原則として一度始まると、ご本人が亡くなるまで続きます。
「もう必要なくなったからやめたい」と思っても、それだけではやめられないのが現状です。
新しい制度では、特定の手続きのためだけにスポットで利用し、問題が解決して必要がなくなれば終了できる仕組みになる見込みです。
なぜ成年後見制度は見直されるのか?
成年後見制度が見直される大きな理由のひとつは、「ご本人の尊厳」に関わる問題が指摘されてきたことです。
今の後見制度では、ご本人が自分でできることまで、すべて後見人に移ってしまいます。
私も実務の中で、「まだ自分でできることがあるのに、全部取り上げられてしまうのは寂しい」という声を耳にすることがあります。
また、現行の「補助」は判断能力がある程度残っている方向けのため、実際の利用者数は後見・保佐に比べて少ないのが実情です。
多くの場合、問題が大きくなり、ご本人の判断能力がほとんどなくなってから後見制度が使われているからです。
今回の見直しは、こうした現行制度の大きな問題点を解消する、良い改正だと私は考えています。
新しい後見制度があれば、家族信託はいらないのでは?
結論から言うと、新しい後見制度が使いやすくなっても、家族信託が不要になるわけではありません。
そもそも、成年後見制度と家族信託は、仕組みがまったく異なるものだからです。
最大の違い|家庭裁判所が関与するかどうか
新しい後見制度も、現行と同じく家庭裁判所が関与する制度です。
ご家族が補助人になった場合でも、家庭裁判所の監督を受けることになります。
また、次のような場面でも、家族だけでは決められません。
- 「もう補助人は必要ないから外したい」
- 「別の人に補助人を交代してほしい」
いずれも家庭裁判所の判断が必要です。
「終了できる仕組みになる」といっても、裁判所に「まだ補助人が必要です」と判断されれば、外すことはできません。
家族信託とは?家族で決めたルールで財産を管理する仕組み
家族信託とは、元気なうちに、信頼できるご家族に財産の管理を任せ、その管理方法のルールを契約で決めておく仕組みのことです。
財産を任された人を「受託者」といいます。
たとえば、次のようなルールを家族で決めておくことができます。
- この財産は長男に管理してもらう
- 自宅を売却する必要が出てきたら、長男が売却できるようにしておく
- 売却代金は、親の生活費や介護費用に使ってもらう
受託者は、信託契約で定めたルールに基づいて財産を管理します。
家庭裁判所の監督のもとで動く後見制度とは、ここが大きく違うところです。
ご家族の状況によって、どの制度を選ぶべきかは変わります。迷ったら、早めに専門家へ相談するのも一つの方法です。
結局どちらを使えばいい?目的別の考え方
成年後見制度と家族信託は、「どちらか一方を選ぶ」ものではありません。
何をしたいのか、そしてご本人の今の状態によって、適した制度が変わります。
すでに判断能力が低下している場合
ご本人の判断能力がすでに低下していて、法律的なサポートが今すぐ必要な場合は、家族信託を結ぶこと自体が難しくなります。
家族信託は契約なので、ご本人が内容を理解して契約できることが前提だからです。
この場合は、後見制度(新制度では補助)を利用することになります。
まだお元気で、将来に備えたい場合
ご本人がまだお元気で、将来に備えておきたい場合は、家族信託が引き続き有力な選択肢です。
- 家族だけで財産管理の方法を決めておきたい
- 認知症になった後も、家族で決めたルールに従って柔軟に財産を管理したい
- 自宅の売却など、将来の手続きをスムーズに進められるようにしたい
こうしたご希望があれば、家族信託が向いています。
家族信託と後見制度を併用する方法もある
家族信託では、財産管理はできても、「身上監護」はできません。
身上監護とは、介護サービスや施設入所の契約など、ご本人の生活や療養に関わる手続きのことです。
そこで、財産管理はあらかじめ家族信託で設定しておき、身の回りのことは必要に応じて新しい後見制度の補助人を利用する、という併用も考えられます。
さらに、任意後見と組み合わせることもできます。
制度が増えるほど「選び方」が大切になります
新しい制度になると、「この手続きだけ、この期間だけ補助人にお願いする」「この財産は家族信託で管理する」といった細かな組み合わせができるようになります。
選択肢が大きく増えるのは良いことです。
一方で、一般の方にとっては「結局どれを使えばいいのか」判断が難しくなる可能性も高いと感じています。
実務の中でも、「制度が変わるなら、認知症になってから考えればいい」と考えている方は少なくありません。
しかし、判断能力が低下してからでは、家族信託や任意後見といった選択肢はとれなくなります。
選択肢が多い「元気なうちに」こそ、一度整理しておくことが大切です。
よくある質問
新しい後見制度はいつから始まりますか?
動画収録時点では、1年少し先に始まる予定とされていますが、具体的な施行日はまだ決まっていません。
今後の発表を確認しながら、最新情報をお伝えしていきます。
制度が変わるまで、家族信託は待ったほうがいいですか?
家族信託はご本人の判断能力があるうちにしか結べません。
制度の開始を待っている間に判断能力が低下してしまうと、家族信託という選択肢そのものがなくなってしまいます。
将来に備えたいとお考えなら、待たずに検討を始めることをおすすめします。
新しい後見制度なら、家族が補助人になれば家族だけで管理できますか?
ご家族が補助人になった場合でも、家庭裁判所の監督は受けることになります。
補助人の交代や終了についても、家族だけでは決められず、家庭裁判所の判断が必要です。
家族信託をしておけば、後見制度は一切いりませんか?
家族信託でカバーできるのは、信託した財産の管理です。
介護や施設入所の契約などの身上監護は家族信託ではできないため、必要に応じて後見制度や任意後見と併用することがあります。
まとめ|新しい後見制度と家族信託、それぞれの特徴を理解して選びましょう
新しい後見制度は、「後見・保佐・補助」が補助に一本化され、必要な権限を個別に設定し、必要がなくなれば終了できる仕組みになる見込みです。
今よりかなり柔軟な制度になることが期待されています。
一方で、家庭裁判所が関与する制度であることは変わりません。
家族信託は、元気なうちに家族だけでルールを決め、そのルールに基づいて家族が財産を管理する仕組みです。
「制度が変わるから家族信託はいらない」のではなく、むしろこれからは、新しい後見制度・家族信託・任意後見それぞれの特徴を理解したうえで、ご本人とご家族に合った制度を選ぶことが、より重要になっていきます。
「親はまだ元気だけれど、何から始めればいいか分からない」
「新しい後見制度を待つべきか、家族信託をするべきか迷っている」
「実家の不動産や預金の管理が、将来どうなるのか心配」
このような、まだ何をするか決まっていない段階でご相談いただいて大丈夫です。むしろ、選択肢が多い今のうちに一度整理しておくことが、ご家族にとって一番の安心につながります。
司法書士法人さえき事務所(東京都町田市)では、遺言書・家族信託・任意後見・相続など、生前対策と相続のご相談を承っています。ご家族の状況を伺ったうえで、「このご家族にとって何が一番合っているのか」を一緒に考えます。
- 平日10時〜19時のご相談は無料です(土日祝は有料)
- ご来所のほか、オンラインでのご相談も可能です
- お電話:042-851-7403
- ホームページのお問い合わせフォームからも受け付けています
制度が変わるのを待つ前に、親御さんがお元気な今のうちに、どうぞお気軽にご相談ください。