[遺言・後見・家族信託]
成年後見人は「誰がなるか」が重要|「仕事がないから後見をやる」専門職の問題点を司法書士が解説
- 投稿:2026年10月15日
成年後見人には本人の財産や生活に関わる大きな権限がありますが、家庭裁判所の監督は年1回程度の書面確認が基本で、後見人本人の倫理観に委ねられる部分が大きいのが実情です。本記事では、司法書士である筆者が「仕事がないから後見をやる」という専門職の考え方の危うさと、ご家族が元気なうちにできる任意後見・家族信託による備えを解説します。
「親の成年後見人に、知らない専門職が選ばれたらどうしよう」
「専門職の後見人なら、誰がなっても安心なのでは?」
成年後見制度を調べていると、このような疑問や不安を持つ方も多いのではないでしょうか。
私は司法書士として、相続や遺言、家族信託などの生前対策を日々扱っています。その中で、同業者から「開業したけど仕事がないから、とりあえず後見をやる」という言葉を耳にすることがあり、正直なところ違和感を持っています。
この記事では、同業者を批判したいのではなく、一般の方に知っておいていただきたいこととして、成年後見制度では「誰が後見人になるか」が非常に重要である理由と、ご家族ができる備えについて解説します。
結論|成年後見制度は「誰がなるか」で大きく変わります
成年後見人には、本人の財産や生活に関わる大きな権限があります。一方で、家庭裁判所の監督には限界があり、日々の仕事ぶりは後見人本人の倫理観や人間性に委ねられている部分が大きいのが実情です。
そのため、私は次のような姿勢で後見を引き受けることには問題があると考えています。
- 仕事がないから、とりあえず後見をやる
- 後見を何件か持てば安定収入になる
- 後見を効率よく件数で回すビジネスと考える
成年後見制度は、専門職の生活を支えるための制度ではありません。ご本人の権利・財産・生活を守るための制度です。
成年後見人とは?どんな権限があるのか
成年後見人とは、認知症や知的障害などで判断能力が十分でない方に代わって、財産の管理や契約などを行う人のことです。家庭裁判所が選任します。
成年後見人が担う主な仕事は、次のようなものです。
- 預貯金などの財産管理
- 介護施設への入居契約など、本人に代わっての契約
- ご家族や施設、ケアマネージャー、金融機関、行政などとの調整
- 家庭裁判所への報告
しかも、こうした関わりは数年から十数年、場合によってはご本人が亡くなるまで続きます。本人の人生の最後まで関わる、非常に責任の重い仕事なのです。
家庭裁判所の監督だけでは防ぎきれない理由
「家庭裁判所が監督しているなら安心では?」と思われるかもしれません。
確かに、成年後見人は家庭裁判所に定期的に報告をし、監督を受けます。しかし、家庭裁判所が後見人の横で常に仕事ぶりを見ているわけではありません。基本的には、年に1回程度の報告書をもとに、書面で確認するという仕組みです。
そのため、次のような点は書面だけでは見えにくいのが現実です。
- 本人のために、面倒なことまできちんと動いているか
- お金の管理が適切に行われているか
- 本人やご家族の話を丁寧に聞いているか
つまり、成年後見制度は後見人の「性善説」に頼っている部分が大きい制度だといえます。だからこそ、誰が後見人になるかによって、ご本人やご家族への影響が大きく変わるのです。
「仕事がないから後見をやる」が危うい2つの理由
もちろん、開業したばかりで仕事がないのは当たり前のことです。私自身も、独立した当初は仕事がありませんでした。仕事がない専門職は後見をやるな、という話ではありません。
問題なのは、「食えないから後見をやる」という動機です。私がそう考える理由は、大きく2つあります。
理由1|後見の仕事は「調整力」が欠かせないから
後見業務は、黙々と書類を処理する仕事ではありません。とにかく人と接する仕事です。
ご本人は「こうしたい」、ご家族は「こうしてほしい」、施設からは「こうしてください」と、関係者の意見が一致しないことは珍しくありません。さらに、制度上できること・できないこともあります。その間に入って話を聞き、説明し、落としどころを探していくのが後見人の役割です。
知名度がない、営業の仕方が定まっていないといった理由で仕事が少ないのであれば、問題はありません。しかし、人と話すのが苦手、相手の話を聞けない、説明が苦手といった理由で仕事が取れていないのであれば、後見業務でも同じように苦労する可能性が高いでしょう。
理由2|経済的に余裕がない人が他人の財産を管理する危うさ
後見人は、数百万円、場合によってはそれ以上の他人の財産を管理します。
その一方で、後見人自身が「売上がない」「事務所の家賃が払えない」「生活費が足りない」といった状態だったらどうでしょうか。自分の口座にはお金がないのに、管理している本人の口座には多額のお金がある。これは非常に危うい状態です。
もちろん、他人のお金に手をつけてはいけないことは誰でも分かっています。それでも人は、追い込まれると判断を誤ることがあります。
- 「10万円だけ借りよう」
- 「来月仕事が入ったら戻せばいい」
- 「一時的に使うだけ」
こうした考えから一度手をつけてしまうと、戻せずに繰り返し、金額が膨らんでいく。そんなことが起こりうるのです。
家庭裁判所への報告で不自然なお金の動きは基本的に発覚しますが、報告は年1回程度です。その間に使い込まれ、回収できなくなるおそれもあります。
お金のある人なら絶対に不正をしない、という意味ではありません。ただ、自分の生活が切迫した状態で他人の財産を管理すること自体にリスクがあると私は考えています。経済的な余裕だけでなく、時間的・精神的な余裕も、後見業務を長く誠実に続けるうえで大切です。
後見は「ビジネス」として割り切れる仕事ではありません
専門職が後見で報酬を受け取ること自体は当然です。無償で続けることを求めるのは、かえって健全ではありません。事務所経営として収益を考えることも、私自身が経営者なのでよく分かります。
ただし、「何件やれば月いくら」「とにかく件数を増やす」「できるだけ時間をかけない」といった効率重視の考え方は、後見業務には馴染まないと考えています。
本人の話を聞く、家族に説明する、施設と調整する。こうした仕事は、効率だけでは割り切れません。後見には、ある程度の公益的な意識が必要です。
本来あるべき順番は、まず自分の本業でしっかり成り立つ状態をつくり、そのうえで公益的な活動として後見を引き受けることだと私は考えています。
ご家族の状況によって、どの制度を選ぶべきかは変わります。「うちの親の場合はどうすればいいのか」と迷ったら、早めに専門家へ相談するのも一つの方法です。
ご家族ができる備え|「誰に任せるか」を自分で選ぶには
法定後見(判断能力が低下した後に、家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう制度)では、申立ての際に後見人の候補者を挙げることはできますが、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所が決めます。ご家族が希望しても、面識のない専門職が選ばれることもあります。
一方、ご本人の判断能力が十分なうちであれば、「誰に任せるか」を自分で決めておく方法があります。
任意後見
任意後見とは、元気なうちに、将来判断能力が低下したときに財産管理などを任せる人と内容を、契約で決めておく制度です。信頼できる家族などを、あらかじめ後見人の候補として選んでおけます。
家族信託
家族信託とは、親が元気なうちに、自分の財産の管理を信頼できる家族に託しておく仕組みです。認知症になった後も、託された家族が契約の範囲内で財産を管理・処分できます。
どちらも、ご本人の判断能力が低下してからでは利用できない点に注意が必要です。選択肢があるうちに検討しておくことが大切です。
よくある質問
専門職の成年後見人は、家族が選べますか?
法定後見の申立ての際に候補者を挙げることはできますが、最終的に選任するのは家庭裁判所です。家族の希望どおりになるとは限りません。後見人を自分たちで決めておきたい場合は、元気なうちに任意後見契約を結んでおく方法があります。
家庭裁判所はどのくらいの頻度で後見人をチェックしていますか?
基本的には、年に1回程度の定期報告を書面で確認する仕組みです。日々の財産管理や本人・家族との関わり方まで常に見ているわけではないため、後見人本人の姿勢が大きく影響します。
成年後見制度は使わない方がよいのでしょうか?
そうではありません。成年後見制度は、判断能力が低下した方の権利や財産を守るための大切な制度で、利用が必要な場面もあります。大切なのは、ご本人やご家族の状況に合わせて、任意後見や家族信託なども含めて比較検討することです。
認知症と診断されたら、もう任意後見や家族信託はできませんか?
認知症の診断があっても、症状の程度によっては契約できる場合があります。ただし、判断能力が大きく低下していると契約はできません。気になる段階で、できるだけ早く専門家に相談することをおすすめします。
まとめ|後見は「この人の人生を引き受けられるか」で考えるべき仕事です
成年後見制度は、ご本人の生活や財産を預かり、人生の最後まで関わる制度です。そして、その運用は後見人本人の倫理観や人間性に委ねられている部分が少なくありません。
だからこそ、後見は「食えないからやる」ものではなく、「この人の財産と生活を責任を持って引き受けられるか」という順番で考えるべき仕事だと私は考えています。
ご家族としては、元気なうちに「誰に任せるか」を考えておくことが、何よりの備えになります。
「親が認知症になったとき、知らない専門職が後見人になるのは不安」
「任意後見と家族信託、うちにはどちらが合っているのか知りたい」
「親はまだ元気だけれど、今のうちに何を準備しておけばいいのか分からない」
このような、まだ何をするか決まっていない段階でご相談いただいて大丈夫です。むしろ、選択肢が多い今のうちに一度整理しておくことが、ご家族にとって一番の安心につながります。
司法書士法人さえき事務所(東京都町田市)では、遺言書・家族信託・任意後見・相続など、生前対策と相続のご相談を承っています。ご家族の状況を伺ったうえで、「このご家族にとって何が一番合っているのか」を一緒に考えます。
- 平日10時〜19時のご相談は無料です(土日祝は有料)
- ご来所のほか、オンラインでのご相談も可能です
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親御さんがお元気な今のうちに、どうぞお気軽にご相談ください。