[相続]
相続の常識は間違いだらけ?よくある10の誤解を司法書士が解説
- 投稿:2026年10月29日
「遺言書があれば絶対にその通り」「遺産をもらわなければ相続放棄と同じ」――相続には、多くの方が信じている誤解があります。遺留分、生前の相続放棄、親子の縁切り、法定相続分、借金の相続、検認、相続税と相続登記、遺産分割協議の多数決まで、実務でよく出会う10の誤解を司法書士・佐伯知哉が解説します。
「遺言書があれば、その通りに分けなければいけないんでしょう?」
「遺産をもらわないと決めたから、相続放棄したのと同じですよね?」
相続のご相談を受けていると、このような「よくある思い込み」に出会うことが少なくありません。
司法書士法人さえき事務所の司法書士、佐伯知哉です。
相続は、法律を知らないことで、思わぬ不利益を受けてしまうことがあります。特に相続放棄や遺留分には期限があるため、勘違いしたまま時間が過ぎると取り返しがつかないこともあります。
この記事では、私が実際の相続相談の中で「勘違いされている方が多い」と感じる10の誤解を、正しい知識とあわせて分かりやすく解説します。正しいか間違いか、考えながら読んでみてください。
結論|相続の「常識」には、実は間違いが多くあります
相続でよくある10の誤解と、正しい答えは次のとおりです。
- 誤解1:遺留分を侵害する遺言書は無効 → 有効。遺留分は金銭で請求する
- 誤解2:親が生きているうちに相続放棄できる → できない
- 誤解3:親子の縁を切れば相続人ではなくなる → 相続人のまま
- 誤解4:遺言書があれば絶対にその通りになる → 全員の合意で別の分け方もできる
- 誤解5:法定相続分は必ず守らなければならない → 全員の合意で自由に分けられる
- 誤解6:遺産をもらわなければ相続放棄したことになる → 借金は残る可能性がある
- 誤解7:親の借金は長男が全部引き継げる → 債権者には法定相続分で請求される
- 誤解8:検認を受ければ遺言書は有効になる → 検認は有効性を保証しない
- 誤解9:相続税がかからなければ手続きは不要 → 相続登記などは必要
- 誤解10:遺産分割協議は多数決で決められる → 全員一致が必要
誤解1|遺留分を侵害する遺言書は無効?
遺留分を侵害する遺言書でも、それだけを理由に無効にはなりません。
遺留分とは、一定の相続人に法律で保障されている、最低限の取り分のことです。たとえば子どもの場合、法定相続分の2分の1が遺留分になります。
「長男に全財産を相続させる」という遺言書でも、遺言書としては有効です。いったんは遺言書のとおりに、財産は長男のものになります。
そのうえで、遺留分を侵害された次男などは、多くもらった人に対して「遺留分に相当する金額を支払ってください」と請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
ここで注意していただきたいのが、次の2点です。
- 黙っていても支払われるわけではなく、自分から請求する必要がある
- 請求には期限があり、原則として相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年(相続開始から10年)を過ぎると請求できなくなる
誤解2|親が生きているうちに相続放棄できる?
相続放棄は、相続が発生した後(親が亡くなった後)でなければできません。
実務でもよくあるのが、「将来の相続を放棄します」という念書を書いてもらっているので、「この人はもう相続放棄しているから関係ない」と言われるケースです。
しかし、このような念書には相続放棄としての効力はありません。
一方で、「遺留分の放棄」は、家庭裁判所の許可を得れば生前でも可能です。
遺留分の放棄と相続放棄は、まったく別のものです。混同しないように注意してください。
誤解3|親子の縁を切れば相続人ではなくなる?
「勘当だ」「二度と顔を見せるな」と言っても、法律上の親子関係は消えません。そのため、相続人であることも変わりません。
何十年も音信不通であっても、戸籍が別々になっていても、相続人であることに変わりはありません。
例外として、「相続人の廃除」という制度があります。子どもが親を虐待していたなど、特別な事情がある場合に、家庭裁判所の手続きによって相続人の資格を失わせるものです。
ただし、廃除されても相続権がなくなるだけで、親子関係そのものがなくなるわけではありません。
誤解4|遺言書があれば絶対にその通りになる?
遺言書がある場合、原則としてはその内容に従います。
ただし、関係者全員が合意すれば、遺言書と異なる分け方ができる場合があります。
ここでいう「関係者全員」には、次の人が含まれます。
- 相続人全員
- 遺言で財産をもらう人(受遺者)
- 遺言執行者がいる場合は、遺言執行者
なお、遺言書で遺産分割が禁止されている場合などは、異なる分け方ができないこともあります。
また、遺言書と異なる分け方をすると、税務上の扱いが問題になることもあるため、事前に確認しておくことが大切です。
誤解5|法定相続分は必ず守らなければならない?
法定相続分は、法律上の「目安」です。必ずその割合で分けなければならないわけではありません。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」で分け方を決めるのが原則です。
相続人全員が合意すれば、たとえば「長男が全部を取得する」といった分け方もまったく問題ありません。もちろん、均等に分けることもできます。
「法定相続分どおりに分けなければいけない」と思い込んでいる方は、非常に多いと感じます。
誤解6|遺産をもらわなければ相続放棄したことになる?
遺産分割協議で「自分は何ももらわない」と決めても、それは相続放棄ではありません。
私はこれを「なんちゃって相続放棄」と呼んでいます。実務上、特に注意していただきたいポイントのひとつです。
本当の相続放棄とは、原則として相続の開始を知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に申述(申し立て)をする手続きです。
本当の相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も、一切引き継がないことになります。
一方、遺産分割協議で「もらわない」と決めただけでは、財産はもらえないのに、亡くなった方の借金は引き継ぐ可能性があります。
ご家族の状況によって、どの手続きを選ぶべきかは変わります。迷ったら、早めに専門家へ相談するのも一つの方法です。
誤解7|親の借金は長男が全部引き継げる?
借金も相続の対象です。相続人同士で決めても、特定の1人だけが全部を引き継ぐことにはなりません。
借金などの債務は、原則として法定相続分に応じて各相続人に引き継がれます。
たとえば相続人同士で「長男が借金を全部払う」と決めたとしても、お金を貸している側(債権者)にとっては関係のない話です。債権者は、法定相続分の割合に応じて、各相続人に請求することができます。
そのため、相続では財産だけでなく、借金の確認もとても大切です。
財産も借金も一切引き継ぎたくない場合は、3か月以内に相続放棄をする必要があります。
誤解8|検認を受ければ遺言書は有効になる?
検認を受けても、遺言書が有効であると保証されるわけではありません。
検認とは、手書きの遺言書(自筆証書遺言)などについて、家庭裁判所で遺言書の状態や内容を確認し、証拠として保全する手続きのことです。
検認を受けても、無効になる遺言書や、手続きに使えない遺言書はあります。たとえば、次のようなケースです。
- どの財産のことか特定が不十分
- 誰に渡すのか、人物の特定が不十分
実際に「検認を受けた遺言書があるので、これで手続きできますよね」とご相談に来られる方もいらっしゃいます。しかし中身を確認すると、「これでは手続きができない」ということも往々にしてあります。
公正証書遺言や、法務局で保管している自筆証書遺言であれば、検認は不要です。特に公正証書遺言は公証人が関与するため、形式の不備で無効になる心配はほとんどありません。
そのため、私は基本的に公正証書遺言をおすすめしています。
誤解9|相続税がかからなければ相続手続きも不要?
相続税の申告と、相続の手続きはまったく別のものです。
相続税は、一定の規模以上の財産がある場合にだけ申告が必要になります。統計上、相続税の申告が必要になるのは、亡くなった方の1割程度とされています。
つまり、多くの方は相続税の申告は不要です。
しかし、相続税がかからなくても、次のような手続きは必要です。
- 不動産の相続登記(2024年4月から義務化)
- 預貯金の名義変更や解約
- 株式などの名義変更
特に不動産をお持ちの方は、相続税がかからなくても相続登記をしなければなりません。
誤解10|遺産分割協議は多数決で決められる?
遺産分割協議は多数決ではなく、相続人全員の合意が必要です。
相続人が5人いて、4人が賛成していても、1人が反対すれば協議は成立しません。何十年も会っていない相続人がいても同じです。
極端にいえば、相続人が100人いて99人が賛成していても、1人が協力してくれなければ遺産分割協議はまとまりません。
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停などを申し立てることになります。
相続人が多くなりそうな方は、遺言書の作成を
相続人の数が増えるほど、遺産分割協議は難しくなります。
特に、お子さんのいないご夫婦は相続人が多くなりやすいため注意が必要です。
配偶者のほかに、ご自身の兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、その子ども(甥・姪)が相続人になります。代を重ねるほど関係性は薄れ、話し合いはどんどん難しくなります。
1人でも連絡が取れない相続人がいれば、手続きは進められません。
次のような事情がある方は、ぜひ遺言書の作成を検討してみてください。
- 相続人の数が多くなりそう
- お子さんがいない
- 相続人同士の仲が悪く、話し合いが難しそう
遺言書があれば、遺産分割協議をしなくても、遺言書の内容に沿って手続きを進められます。
よくある質問
遺留分侵害額請求は、自動的に支払ってもらえますか?
自動的には支払われません。遺留分を侵害された人が、自分から請求する必要があります。
また、相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年で請求できなくなるため、早めの対応が大切です。
生前に「相続放棄します」という念書を書いてもらえば有効ですか?
相続放棄としての効力はありません。相続放棄は、相続が発生した後に家庭裁判所で手続きをする必要があります。
生前にできるのは、家庭裁判所の許可を得て行う「遺留分の放棄」です。
遺産分割協議で何ももらわないと決めれば、借金も引き継がずに済みますか?
済まない可能性があります。遺産分割協議で決めた内容は、お金を貸している側(債権者)には主張できないのが原則です。
借金も引き継ぎたくない場合は、原則として3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があります。
手書きの遺言書は、検認を受ければ必ず使えますか?
必ず使えるとは限りません。検認は遺言書の状態を確認して証拠を保全する手続きで、有効性を保証するものではないからです。
財産や人物の特定が不十分だと、手続きに使えないこともあります。
まとめ|相続の「思い込み」は、早めに専門家と確認を
今回は、私が実際の相続相談の中で、勘違いされている方が多いと感じる10の誤解をご紹介しました。
相続は、法律を知らないことで思わぬ不利益を受けることがあります。
特に、相続放棄(原則3か月)や遺留分侵害額請求(原則1年)には期限があります。「知らなかった」では済まないこともあるため、注意が必要です。
「親が亡くなったけれど、相続放棄するべきか分からない」
「遺言書が見つかったけれど、この内容で手続きできるのか不安」
「子どもがいないので、自分の相続で兄弟や甥・姪が困らないようにしたい」
このような、まだ何をするか決まっていない段階でご相談いただいて大丈夫です。むしろ、選択肢が多い今のうちに一度整理しておくことが、ご家族にとって一番の安心につながります。
司法書士法人さえき事務所(東京都町田市)では、遺言書・家族信託・任意後見・相続など、生前対策と相続のご相談を承っています。ご家族の状況を伺ったうえで、「このご家族にとって何が一番合っているのか」を一緒に考えます。
- 平日10時〜19時のご相談は無料です(土日祝は有料)
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「これって勘違いかも?」と思ったら、手遅れになる前に、どうぞお気軽にご相談ください。